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【紫原明子のお悩み相談】なんでも否定する母とどう向き合うべきでしょうか。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが、読者のお悩みに答える連載。今回は否定的な母の存在が重荷となっている女性からの相談です。

<お悩み>

私の選択を必ず否定する母にどう向き合うべきか悩んでいます。母は私が小さい頃から“手がかかる子”だと言って必要以上に干渉しました。成人後も私が母の意に沿わない選択をすると親戚じゅうに愚痴をこぼして従うよう仕向けました。干渉をやめるよう伝えても『学校で孤立したあんたを見捨てなかったのに』『明るくなれって毎日怒ったのに暗いままだったね!お母さん病気になりそうだった』など過去の出来事を持ち出されてはこちらも言い返せません。他の人に相談しても『もっと話し合えば?』や『お母さんから見て完璧になれば何も言われないよ』と返されて二重に傷つきます。

(ピンクノ/女性/30代主婦です。会社員の夫(30代)と5歳の長女がいます。)

紫原明子さんの回答

ピンクノさんこんにちは。お手紙をありがとうございます。

お友達の方は「お母さんから見て完璧になれば〜」なんて仰るということですが、親と子のように近い関係の中で、何に長けていて何が欠けているかを見ようとしたって絶対に客観性に欠けるのであてになりません。ましてやお母さんの場合、過去の話を持ち出されるということで、ピンクノさんがタイムトラベラーにでもならない限り手の打ちようがないですからね。じゃあお母さんは一体なんでそんな言っても仕方がないことを言うのかと考えてみると、それはやはり、言いたいから言う、それだけなんだと思います。言いたくて言いたくて、我慢できないんだと思います。言いたいから言いたい放題言うなんて他人同士なら当然許されないことです。でも、親子や兄弟など、近い関係では往々にして起こってしまうもので、これは本当に厄介です。

私は、子が必ず親に感謝しなければならないとか、親を無条件に大切にしなければならないとか、そんなことはないと思っています。頼んでもいないのに勝手に産んで、それでいて無条件に感謝せいというのはあまりにもヤクザなやり方ですよ。感謝したいとか、大切にしたいとか、そういう気持ちは無理に強いられて出てくるものでもありません。自然と湧き上がってくるもので、湧き上がってこなければそれは、親がそう思えるだけの環境を用意できなかったということです。

だから、自分の人生を根拠なく妨害したり、自分を否定し苦しめたりする親とは、基本的には向き合うことさえしなくてもいいと、私は思っているのです。子供になら他人にはしないような失礼なことができると、もしそう思っているような親なら、それは大間違いだと気付かなければならないし、子供は当然それを拒否していいのです。何か言われても取り合わずに聞き流していいし、できるだけ逃げて接点を持たないようにしたっていい、ことの深刻度によっては絶縁したっていいとも思います。

ただそうは言っても、そんなに簡単に割り切れないのが親子関係の難しいところでもあります。もしかしたらピンクノさんが悩まれていらっしゃるのも、記憶の中に少なからずお母さんとの暖かい思い出があったり、あるいは、やっぱりお母さんに心の拠り所であってほしいという思いが残り続けてしまうからかもしれません。もしもそうであれば、やはり仰るとおり、一旦はお母さんと向き合っていく方法を考えてみましょうか。

といっても、ピンクノさんはこれまで正攻法で散々お母さんと向き合ってこられたのでしょう。だから傷つき、苛立ち、こうして相談のお手紙を書いてくださったのでしょう。けれどもそれではもろに、正面から弾をくらってしまい、ピンクノさんの体がもちません。そこでもし私がピンクノさんであれば、まずは大変申し訳ないけれど、もうこれから先お母さんをお母さんと思わず、一つの現象と捉えることから始めると思います。雨が降ったり、台風が来たり、雷が落ちたり、地震がきたり。たとえば自然界にはさまざまな自然現象が起こりますが、お母さんという存在も、出先で遭遇した悪天候のように、ひとつの迷惑な現象だと思ってみるのです。

雨が降ったからといって雨雲に「傷つけられた」と思うことはないと思います。雷が直撃したらさすがに痛いだろうし死ぬかもしれないけど、自分から離れた場所に落ちている雷ならやかましい程度です。そんなふうに、お母さんを前にしても、心の距離をきちんと取ります。お母さんがピンクノさんに発する否定的な言葉もただの現象に過ぎない、迷惑だなあと思いこそすれ、自分は決して傷つけられることはない。そう思うことにします。

とはいえ、ただ攻撃が病むのを待っているのも不毛なので、せっかくならその現象がなぜ発生しているのか、その原因の探求につとめてみてはいかがでしょう。お母さんはなぜピンクノさんを否定するのか。なぜ今更言っても意味のないことを言うのか。その枯れないエネルギーはどこからくるものなのか。何がお母さんをそうさせるのか。……念のために言っておくとこれは決して、お母さんを理解し、許してあげるよう仕向けているわけではありません。むしろ、ピンクノさんご自身の「自分探し」として取り組まれると良いと思うんです。ピンクノさんが生まれたときから今まで、誰よりも身近な場所にいて、価値観の土台を築き上げた人物、お母さんという理解不能な現象を解析することで、自分がどんな環境で育てられたか、意識の中に何を植え付けられてきたかを客観的に振り返ることができます。お母さんの問題を抜きにして、ピンクノさんご自身が抱えていらっしゃる課題はありますか? もしかしたらそこにも、お母さんとの関わりが大なり小なり影響を及ぼしているかもしれません。その相関を探るためにも、お母さんという現象を適切に踏み台にして、きわめて利己的に、ピンクノさんご自身が自己理解を深めていかれると良いと思うのです。

お母さん現象の研究のやり方としては、子供の頃理科の実験でやったあれと同じように、問いに対して仮説を立てて検証していく、というのが良いと思います。

***

問:お母さんはなぜ過干渉なのか。なぜこうも執拗にピンクノさんの人格を否定し続けるのか。(ピンクノさんに至らない点があるという可能性はここではもう完全に排除して話を進めます)

仮説:いただいたお手紙だけで私が勝手に仮説を立ててしまうのはよくないので、これはぜひピンクノさんご自身で検討されてみてください。ここでは、仮説を立てる上で役に立つかもしれない問いを考えてみました。

・お母さんは自分の人生に満足しているか。
・お母さんは自分の人生を生きていると感じているか。
・お母さんに友達はいるか。
・お母さんの口癖はなにか。
・お母さんとお父さんの夫婦関係、お母さんとそのご両親との関係は良好か。
・お母さんはピンクノさんを否定することでどういう気持ちを得たいのか。
・仮にもしピンクノさんを否定することによって、お母さんが自分の中に欠けている何かを満たしているとすれば、それは何か。

検証:これもまた仮説次第ということになりますが、おそらくお母さんの人生に関する質問を投げかけてみるとか、あるいはお母さんの身近な人に、ピンクノさんの知らないお母さんについて聞いてみる、そういうことをしてみることになるかもしれません。

***

お母さんがどうしてそうなってしまったのかはわからないけれど、少なくとも成人し、結婚し、子供まで持った娘の人生にいまだに影響を及ぼそうとされている時点で、お母さん自身も、決して人生の幸せを実感されていないのかもしれないと感じました。母でも妻でもない自分だけの人生を、とても空虚なものとみなしていらっしゃるのかもしれません。

だからといってもちろん同情なんてしなくていいのですが、それでももし何かきっかけがあって、お母さん自身が自分の人生に目を向け、蓋をしていた思いと向き合えるようなことがあれば、今からでもお母さんの人生が変わる可能性は多少なりともあると思います。またそれによって、お母さんがピンクノさんに向ける眼差しや言葉も、少しずつ変化していくかもしれないとも思います。

親子って本当に難しいですね。関係性が近い分、どんどん自分と相手の境界線が薄くなって、ふと気づけば、踏み越えてはいけない一線を超えて、相手と同化してしまっている。ただ、繰り返しになりますが、お母さんの言葉にピンクノさんは一切傷つく必要はありません。ピンクノさんはもう立派な大人で、自分の責任で選択をなさって生きているのだから、いくらお母さんであろうと侵入されたくないご自身の大切な世界は堂々と守ってください。

その上でもし、少しやってみようかな、という気持ちになられたら、よろしければぜひ、お母現象の研究、トライしてみてくださいね。

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イラスト:わかる
イラスト:わかる
  • 紫原明子

    紫原明子 (しはらあきこ)

    1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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