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【紫原明子のお悩み相談】2度と男性を好きになることはないと確信しました。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが、読者のお悩みに答える連載。今回は離婚をしてから人生に希望を見出せなくなってしまった女性からの相談です。

<お悩み>

よく、離婚してスッキリしたという話しを聞きますが、私は正反対の離婚をしました。 夫にモラハラとDVを受け、人格否定され鬱になりましたが、それでも離婚したくありませんでした。 仲の良かった時代が長かったし、やり直せるほど私は若くなく、身寄りもなく、すがれる者が彼しかなかったからです。 結局、一方的に離婚され、家も仕事もない私は自殺未遂をしました。 ですが、死に切れませんでした。 何人か男性を紹介してもらいましたが、確信した事が有りました。 もう、男性を好きになる事は2度とない事を。 そして、好きでもない男性と、割り切って一緒に暮らせるようなおおらかさを持っていない事も。 という事は、資格も特技も何もない私は、一生小さなアパートで、孤独と貧困の中ひたすら身体が動くまで働き、働けなくなったら生活保護を受けて、1人で死んで行くという事です。

離婚するまでは、それなりに楽しい人生でした。 飢える事や死ぬ事を意識したのは初めてでした。 こんな人生になるなんて、夢にも考えていませんでした。 私は、何を希望に生きて行けば良いのでしょうか。 人生が地獄でしかないのに、まだまだ生きていかなくてはならない事が、辛くて悲しくて本当に嫌になります。 早く安楽死が認められる事を祈るばかりです。

(あん/休職中)

紫原明子さんの回答

あんさん、こんにちは。苦しい中でお手紙を書いてくださって本当にありがとうございます。

身近な人からの長きにわたる人格否定というのは、本当に深い傷を残します。なぜならそれは、自分の本体への攻撃というよりも、本体を支えている土台の方への攻撃だからです。本体が傷ついたって土台が大丈夫なら、なんとか立っていられる。でも、土台から傷つけられてしまうと、たとえ攻撃がやんだとしても、すぐには立ち上がることができません。土台というのはそもそも、あんさんが生まれてから大人になるまでの間に、10年、20年と時間をかけて作ってきたもので、そこをぼろぼろにされてしまったのだから、再構築するにはどうしたって時間がかかります。

当時の旦那さんがあんさんをそんな目に遭わせたのも、土台を崩すことで、自分がいなければ生きていけないようにするためだったのだろうと思います。おそらく当時の旦那さん自身が大きな不安から逃れられない人で、あんさんの土台が強固にあって、いつでも自分の元から去っていける状態にあることに耐えられず、だからあんさんの自信や自尊心を根こそぎ奪って、自分がいなければ生きていけないようにしていたのだろうと思います。私はやっぱり、元旦那さんがあんさんにしたことはとても酷いことだと思います。土台を攻撃して逃げられないようにするなんて、絶対にしてはいけないことだと思います。またそんな状況下では、あんさんが離婚をしたくなかったのも、離婚をしてから不安になってしまうのも当然のことです。ここからは好きにしろと言われたって、足を折られてしまっているのだから、どうしたらいいのかわからなくなってしまいますよね。

だけど、それさえかつての旦那さんの一方的なやり方だったとしても、あんさんは今、離婚され、そんな状況から脱することができました。少なくとも、もうこれ以上攻撃を受けることはないということです。であればこそ、ここからは一度崩されてしまったあんさんの土台を、時間をかけて再度、作り直していかなければなりません。あんさんは今、ようやく自由を手に入れたのです。自由は最高だ!と思えるようになるためには、再び自分で立って、どこにいくにも、何をするにも万全の体を取り戻さなくてはなりません。

そのためにはまず、あんさんが日常の中で少しずつ、自分自身で自分をいい気持ちにする、その方法を思い出していく、ということが必要なのではないかと思います。もちろん、すぐにはそんなこと思いつかないかもしれません。自分の中から湧き上がる、楽しみたい、ワクワクしたい、良い気分になりたい、そんな欲望に頑丈に蓋をして、そのうちいつしか欲望の泉があったことさえ記憶から消してしまう。自分の土台がなくなってしまうというのは、きっとそういうことだと思います。だけど生きている限り、欲望の泉がすっかり枯れて、跡形もなくなってしまうということはきっとないと、私は思うんです。

小さなことでいいんです。あんさんは気づいていないかもしれないけれど、あんさんの文章はとっても美しい文章です。こういう文章を書かれるということは、もともと美しいものへの豊かな感性を持っていらっしゃるのではないでしょうか。であればこそ、辛い時期に麻痺させてしまったその感性を少しでも取り戻すことができたら、きっとそれだけで、見えている世界が少しずつ変わってくるのではないかと思います。

これから春になります。お休みの日にはお家の近所をお散歩してみてはどうでしょう。暖かい風が吹き始めたら、いろんな花が咲きます。人間の暮らしの中で立場を追いやられているので、もしかしたらすぐには目に入らないかもしれないけれど、だからこそ目をこらしてよく探してみると、黄色や青の小さな星みたいな花が、コンクリートの隙間のわずかな土の上に咲いていたりします。見つけたときには本当に嬉しくなります。桜も咲きますね。花が終わったあとの鮮やかな新緑も、見ているだけで体をマッサージしてくれるみたいに、軽やかな気分にしてくれます。

あてもなく歩いている途中に美しいものを見つけたり、好物をいつもより少しだけ余計に食べてみたり、気になった本を読んでみたり、通り過ぎる誰かの人生の物語に思いを馳せてみたり。自分のためだけに時間を使える、本当に自由だからこそできることが今、あんさんの目の前にはたくさん並んでいるのです。そして、あんさんが好きなように生きて、自分を幸せにしようとすることを、もう誰も邪魔したり、否定したりしないのです。せっかくなら生きている間に、少しでもたくさんいい気分になったほうがいいじゃないですか。誰かに求められること、必要とされることだってたしかに喜びを与えてくれる。だけど、もうそれは十分長くやってきたじゃないですか。次は、あんさんご自身で、思うままに自分を喜ばせてあげる。自由だからこそできることを、たくさんやってみませんか?

今の世の中で、女性が仕事をして満足に稼ぎ、生きていくことは決して簡単なことではなく、私もあんさんの不安なお気持ちがとてもよくわかります。だけど、あんさんは今、時間をかけてリハビリをされている最中なので、焦ったり、不安になったり、死にたくなるくらいなら、とりあえず先のことを考えるのはやめましょう。まずは今この瞬間をできるだけ気持ちよく生きる、そのことを最優先に考えましょう。それでいいし、先々どうしようもなくなったとしても、そのために日本には生活保護という制度があるので、何の後ろめたさを抱えることもなく、そのときは堂々と頼りましょう。

それに自分の世界の中で、小さな美しさや楽しさを見つけて、自分で自分の人生に必要なエネルギーをちょっとずつ充足していけるようになったら、そんなあんさんの姿はきっと、周りからは今よりさらに魅力的に映るようになると思うんです。あんさんと仲良くしたいな、と思う人が自然と集まってくるだろうし、そうやって出会った先で交際に発展した人とは、おそらくこれまでより断然良い関係が築けるようになると思います。

本当にあんさんのことを大事にしてくれる人は、あんさんの土台を攻撃したりしません。あんさんがしっかりと自分の土台の上に立っていて、いつでも、どこにでもいけるという状態の中で、それでもなお自分といることを選んでくれる、そのことに価値があると思ってくれる人です。新しい毎日の中で、自分を取り戻したあんさんには、きっとまたそんな出会いが訪れると私は信じています。

また少なくとも私は、あんさんがこの広いインターネットの世界で私を見つけてくださり、お手紙を書いてくださったことが本当に嬉しく、あんさんのおかげで明日も頑張って生きようと思うことができました。そんな恩人のあんさんには、どうか毎日、少しでも長い時間いい気分でいてほしい、自分のことを愛おしんであげてほしいと心から思うのです。

後悔されていても、絶望されていてもいいです。急には変えられなければそのままでいいのです。ただそれはそれとして、毎日少しだけ、生活を楽しんでみることにしませんか?

また気が向いたときにでも、お手紙を書いていただけたら、私はとても嬉しいです。

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イラスト:わかる
イラスト:わかる
  • 紫原明子

    紫原明子 (しはらあきこ)

    1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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