日本古来の心の拠り所を描く。松尾たいこさんの運を呼び込む習慣。
撮影・黒川ひろみ 文・一澤ひらり
「日本古来の心の拠り所を描く。 その制作過程をシェアすることを 幸福に感じます。」
伊勢神宮や出雲大社、神社に祀られる神々をモチーフにポップで鮮やかな絵を描く松尾たいこさん。
「もともと西洋的なモチーフを描くことが多く、神社仏閣にはあまり興味がなかったんですけど、編集の方に私の描いた神社を見てみたいと言われて伊勢神宮125社を全部回ったのが最初です。それがすごく気持ちよくて。鳥居と本殿だけの小さい社や石だけの社もあって、どう描き分けていくか悩みました。でも光や風、木々のそよぎや草の匂い、鳥のさえずりを肌で感じたことが助けになりましたね」
それ以後、森羅万象に神が宿るという日本古来の概念に共感し、古事記に登場する神々や神社を題材に表現を追求するようになった。
「私自身は神社へ行っても『いつもありがとうございます』って感謝するだけで、願い事はしないんです。何よりも行くと清々しいというのが一番で、元気になって前向きになれれば、良い運が巡ってくるように思うんですよね」
できないことにとらわれず、今できることを見つけながら前へ。
しかし試練が。コロナ禍で仕事も制限され、何のために絵を描くのか、自問自答しないではいられなかった。
「これまでハッピーを伝えたい、楽しい作品を作りたい一心で描いてきましたけど、立ち止まざるを得なくなってしまった。それで今できることを考えて『見えないけれど、つながっている。会えないからこそ、愛おしい』をテーマに描こうと思ったんです」
うれしかったのは、インスタグラムなどで自分の絵を見てくれる人たちからダイレクトに感想が聞けて、独りではないんだと思えたこと。
「楽しく描いたものはちゃんと伝わるって、自信にもなりました。シェアできれば幸せは伝播していくと思うんですね。神社や神様、龍などを描くようになって心が強くなれたのは、そうした周りの人たちとの共感があってこそ。結びつきの大切さを感じています」
喜びを分かち合うこの気持ち、それこそが招福につながるに違いない。
今も神話が息づく出雲を描き、古代の歴史ロマンにたゆたう。
右の絵は出雲大社。ご祭神はオオクニヌシで、縁結びの神社として知られる。左はヤマタノオロチを退治するスサノオを描いた。
龍や架空の生き物に心惹かれ、想像の翼を大きく羽ばたかせて。
自在に空高く跳びまわる龍は大好きでよく描く。中央の青毛の馬は、いつかは訪れたいと願う神社の神使いで、その天に昇る姿。
疫病退散のアマビエ様も こんなにキュート!
コロナ退散の願いを込めて、アマビエを描いた。「自著を購入された方にお渡ししました」
『クロワッサン』1036号より
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