「生活を楽しくするうつわを探していたら、民藝に辿りつきました」と話すのは、うつわと手仕事の店『工芸喜頓』の石原文子さん。
民藝とは名もなき職人がつくった民衆の日用品、つまり「民衆的工藝」の略。大正末期から昭和初期にかけて、思想家の柳宗悦を中心に始まった新しい美の基準。
それまでは”下手物(げてもの)”などと呼ばれていた生活道具や食器に、のびやかで素朴な美しさを見いだした柳宗悦は、全国の産地やつくり手を次々と訪問。土地土地の風土から生まれる簡素な形や力強い文様に心を揺さぶられた。
「今、民藝のうつわと呼ばれているのは、当時から続く工房や窯元のものと、その技術や精神を受け継ぐ個人のつくり手の品の両方です。作風も種類も多岐にわたりますが、なにしろ私が心惹かれるのは、そこに、日々の生活を支える料理をよりおいしくいただくための知恵が詰まっているからなんです」
たとえば、と厚手の鉢を手に取って、
「飯茶碗ならこのくらいの重さ、鉢ならこんな厚みという、日本人として慣れ親しんだ感覚がある。民藝のつくり手はそういう本能的な安心感を大事にしているように思います。薄くて軽いうつわは持ちやすいけれど、軽すぎると手にした時に違和感があるし、洗うのもそわそわしてしまいますよね」