くらし

【紫原明子のお悩み相談】余裕のある美人人妻になりたいです。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが、読者のお悩みに答える連載。今回は会社で独身社員のことを目で追ってしまうのをやめたいと思う女性からの相談です。

<お悩み>

たまに既婚男性と飲みに行って軽くチヤホヤされることで満たされていたらしく、このご時世でそういう機会がなくなって余裕が減っている気がします。 そのため、異動した先で一緒に働くようになった独身の同僚のことが気になるようになってしまいました。 性格はまったく正反対だし仕事についての考え方も合わないことが多いのですが、年が近いせいか雑談していると価値観が似ていて、ちょっとした共通点がお互い驚くくらい多いことから気になる存在になっています。 顔が好みなこともあり目で追ってしまうことが増え、物欲しそうな主婦丸出しで恥ずかしいです。 手近な漁場を荒らすことはしたくないので、余裕がある美人人妻会社員を目指すために、心掛けのアドバイスをいただければ嬉しいです。

(ねむり三四郎/小学生の子供がいる31歳会社員です)

紫原明子さんの回答

……おぬし、できる!

私には見えます……。ねむり三四郎がこれまでその色気と美貌で荒らしてきたであろう日本各地の恋の漁場が。気づいたときには欲望のままに乱獲の限りを尽くされ墓場のようになった漁場が。そこに呆然とたたずむ地元漁師たちの腑抜けた顔までもが。私にはきわめて鮮かに見えますぞ……。

いやぁ、大変な相談者がやってきてしまいました。何と言っても“物欲しそうな主婦丸出しの現状を脱し、余裕がある美人人妻会社員を目指すためのアドバイス”ですからね。間違いなく高い位置で安定してそうな自己肯定感が、もはや5月の雲ひとつない高原のように気持ちいい。私が職場の同僚男性なら、やっぱり一度くらいねむり三四郎に斬られてみたいと思ってしまいそうです。

しかし仰るとおり、近場の漁場を“荒らすな危険”はおばあちゃんの代から言い伝えられている周知の事実です。今後も長く働きたい職場であればこそ面倒事を避けたいお気持ち、とても良くわかります。でも、物欲しそうな顔が丸出しになってしまう。ではいかにして自分を抑え、余裕を醸し出すか、ということですが……やはりここは、どう考えても一つしか答えはありません。

この際、パートナーとのアブノーマルセックスを極限まで極めてみる、これです。

なんとなくオブラートに包んでいたって私達はもうわかっていますね。飲みの席でのチヤホヤを求めたり、好みな同僚を目で追ってしまう、その理由は率直に言って性欲です。ですから、チヤホヤも同僚も必要なくなるくらいデフォルトの状態で十二分に性欲を満たしておきさえすれば、自ずと会社では余裕がある美人人妻会社員になれる、というからくりなのです。そして十二分に欲求を満たすための最も安全な場所は当然ながら自宅です。であればこそ、たとえばこのコロナ禍の今だけと割り切ってでも、ここは一度、暗かった灯台の足元に目を向け、本来のパートナーの方とともに、まだ見ぬセックスの新境地を目指してみられてはいかがでしょうか。

ねむり三四郎さんとパートナーの方との関係性が現在どのような状況にあるのかは定かではありませんが、勝手ながらこの明るく軽やかな文体からは、夫婦間にシリアスで根深い問題を抱えていらっしゃるわけではないようにお見受けします(もし見当違いなら別途ご連絡ください)。基本的には夫との関係は良好、だがしかし、たまには外に刺激を求める、というような日常を過ごしていらっしゃるのだとしたら、この新境地セックスは多いに可能性があるのではないかと私は思うのです。

もちろん、だからといってあまりにも突然、方向性を激変するのはメンバー間に衝撃が走って解散の危機に面してしまうので、まずはステップバイステップで。毎回の営みのたびに何か一つ、それまでやったことがないことをやってみる、という小さな目標からスタートしてみるのはいかがでしょう。ゼロから新しい世界を創造するのは難しいので、その手の小説や漫画で、念入りに知識を仕入れておきましょう。

最初のうち、夫の方はねむり三四郎さんにそのような思惑があることなど知らないはずなので、戸惑いとともに受け身に回ることと思われます。そうすると、ねむり三四郎さんは自分だけがやたら頑張っているような気になるかもしれません。しかししばらくの間は根気強くねむり三四郎さんがリードし、合間に手取り足取り要望を伝えながら相手の行動変容を待ちましょう。山本五十六も言ってましたね。

「やってみせ、言って聞かせてやらせてみて、ほめてやらねば人は動かじ」

そして私は今、この文章を書く上で初めて知ったんですが、なんとこうも言ってるそうです。

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず」

ねむり三四郎さんの誠実な取り組みに感化された夫が、ついに勇気を出して自らも新技を使ってきたら、今度はその姿を信頼と感謝で見守る。もはや山本五十六はどう聞いても夫婦間で新境地セックスを育む心得を説いているとしか思えません。この格言は壁に貼っておきましょう。

そうはいっても、夫婦間でセックスを深めるという一見シンプルなことこそ簡単なようでいて難しい。それについては私も重々承知しております。しかしだからと言って取り組むだけ無駄かと言えば、決してそんなことないと思うのです。

何しろ今後ねむり三四郎さんがどんどん年齢を重ねていかれる中で、広く、浅い、量的な刺激を求め続けるにも、いずれは体力や気力とせめぎ合うことになろうかと思われます。であればこそ、今のうちに一点集中の、より深い、質的な刺激を求める体制にシフトしておくことは、長い目で見てもなかなか理にかなっているのではないかと思うのです。

前日夜にとんでもなく破廉恥な夫婦の営みを味わっておくことで、翌日には疲労感で新たな刺激を求める気力もない。且つ、漂う気だるさでもって、完璧に余裕のある美人人妻会社員が作られるというソリューション。私としてはぜひ大真面目にご提案したいところです。ぜひ、ご一考いただけますと幸いです。

紫原明子さんへのお悩み相談はこちらから!

イラスト:わかる
紫原明子

紫原明子 (しはらあきこ)

1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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