くらし

【歌人・木下龍也の短歌組手】情景がきれいに浮かぶ短歌。

〈読者の短歌〉
弥勒菩薩半跏思惟像らしきかなロングピースが右手になけりゃ

(toron*/女性/テーマ「恋人」)

〈木下さんのコメント〉
この短歌を読む前に「弥勒菩薩半跏思惟像」を知っておきたかった。読んだ後に画像検索をしたのでどうしても湯上りに半裸で煙草を吸っている人のようにしか見えない。

〈読者の短歌〉
早押しのようにWikipediaに没と書き込む人とたしかめる僕

(平井まどか/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
「没と書き込む」とき人間はシステムの一部として作動してるんでしょうね。動作ではなくて作動という感じがします。情報を更新しているだけ、最新の情報がたまたま死だったというだけで。その無慈悲な、無慈悲であるべき正常な作動を確認しても「うわっ」となるだけなのになぜか見に行っちゃう。怖いもの見たさなのかな。何がしたいんだろう、そのときの自分は。

〈読者の短歌〉
うんこだけして出て行ったコンビニが家のそばまで追いかけてきた

(飯田和馬/男性/テーマ「コンビニ」)

〈木下さんのコメント〉
トイレだけ借りて帰ったときの罪悪感に対して与えられる罰。コンビニは人間の生活に寄り添ってくれる優しい存在である、というイメージを強引かつ鮮やかに裏切ってみせた1首です。レジ袋を求めるときの罪悪感にはどんな罰が用意されているんだろう。

〈読者の短歌〉
歌詞に載るwowと載らないwowの差を考えていたときのふたりだ
(森本りん/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
取るに足らないシーンだからこそいつまでも覚えていることってありますね。ところでその「差」はなんなんだろう。アドリブなのかな。「載らないwow」をカラオケで歌うのは恥ずかしいけど忠実に再現したいから載せてほしいなといつも思います。「ラララハッハーウーウォウウォー」とかも。

〈読者の短歌〉
夕やけにしとくでねってばあちゃんが紐を引くから夢も夕やけ
「寝る前に、部屋をオレンジ色の暗い照明にしていると、祖母の家によく泊まっていた小学生のころを思い出します。おばあちゃん家のオレンジ色の照明は、なんか優しかったなぁ。」
(今野日日/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
常夜灯には家庭それぞれに呼び方があって「夕やけ」もそのひとつですね。「ばあちゃん」という存在のあたたかさ、「夕やけ」のあたたかい色、そして「しとくでね」という自然現象を操るような頼もしさが孫の夢まで優しく包み込む。

どんどん短歌を作って応募してください!(撮影:木下さん)

木下龍也
1988年、山口県生まれ。2011年から短歌をつくり始め、様々な場所で発表をする。著書に『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』がある。

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