これって有効? それとも…?話題の脳トレ法の、正解を探る。
脳科学者の杉浦理砂さんに聞きました。
イラストレーション・ヤマグチカヨ 文・板倉みきこ
脳に良いと噂のMCTオイルを摂取
(△)脳への好影響は期待できますが、摂取量や方法には検討の余地あり。
脳はエネルギー源としてブドウ糖を利用します。でも、老化の進行やアルツハイマー型認知症などで、ブドウ糖を上手に使えなくなることがあり、脳がエネルギー不足になって記憶力などの認知機能の低下を招くのです。MCTオイルは、ブドウ糖に変わるエネルギーとされるケトン体を効率的に作るので、摂取することで脳への好影響が期待できます。ただ、まだ研究段階。摂取量や摂取方法は検討する余地があります。
記憶力を蘇らせるローズマリーの香りをかぐ
(△)香りに飽きてしまわないよう、メリハリをつけて使い分けて。
西洋で「記憶のハーブ」と称されるローズマリーは、脳細胞を保護する効果などが報告されています。その他、ペパーミント、ユーカリ、レモンなどの精油が、記憶力に関連するといわれます。ただ、ずっと同じ香りをかいでいると脳が慣れて効果が薄れてしまうので、メリハリをつけて使い分けると効果的です。また、香りには好みもあるので、自分が心地よいと感じる香りを選ぶことも大事。
ぬり絵を趣味にする
(○)自分に合ったレベルのぬり絵で、脳の広範囲を刺激できます。
下絵を眺めると後頭葉にある視覚野を、色や形を認識しているときはそれらの記憶が保存される側頭葉、塗る段取りを考えるときには前頭葉の前頭連合野を、実際に塗る作業では、手を動かしたりコントロールする前頭葉の運動野を刺激するなど、ぬり絵は脳の広範囲を活性化。同時に脳疲労を低減させる効果もあるのです。ただ、簡単すぎると脳の活性度が下がるので、レベルは考慮してください。
囲碁や将棋をする
(○)老化で衰えやすい前頭前野を、効果的に活性化できます。
将棋にルールが似たチェスに、認知症の前段階である軽度認知障害の人が認知症へ移行する速度を遅らせる効果がある、という報告があります。盤上の駒の配列を眺め、攻守のタイミングを計り、注意力と集中力を働かせて臨むので、加齢により衰えやすい前頭前野をはじめ、広範な脳部位が鍛えられます。囲碁も同様です。楽しみながら続けることで、認知機能の維持・向上や、認知症の予防効果が期待できます。
ランニングで脳を若返らせる
(△)有酸素運動のランニングと、無酸素運動の筋トレを組み合わせて。
有酸素運動のランニングは、脳、特に前頭前野の血行改善には良いといえますが、脳と体の若返り効果をさらに高めるには、筋トレなどの無酸素運動も大事。筋肉の細胞から分泌される物質が、記憶機能の低下や認知症の原因となる海馬の萎縮を防ぐことが示唆されています。脳を含めた心身の健康維持には、有酸素運動と無酸素運動をバランス良く行うのがいいでしょう。
脳に刺激を与えるお手玉遊び
(○)遊びながら、脳の多くの部位に刺激を与えられます。
動くお手玉を視覚で捉え、空間認知し、注意深く器用に操ることで、後頭葉、頭頂葉、前頭葉など、脳の広範な部分が活性化されます。お手玉の数を増やすと難易度が上がって効果的ですが、2つでも充分。例えば、お手玉をしながら歌を歌ったり、言葉を逆から言ったり、計算したり、誰かと一緒にやってしりとりもするなど、知的刺激を同時に加えると、さらに脳の多くの部位を刺激できます。
[トレーニングばかりに注目せず、 脳を休ませることも心がけて。]
脳の神経細胞は筋肉と同様、使わないと失われ、認知機能も衰えていきます。ですから年齢にかかわらず、普段あまり脳を使っていない方は、積極的に脳を使って活性化することをおすすめします。また、偏った脳の使い方をしている方は、使わない脳の部位を意識的に活性化させ、バランス良く使っていくことも重要です。たとえば、ルーティンワークが多いなら、想像力を発揮する趣味をしてみたり、平日パソコン作業ばかりなら、休日は体を使ったり、芸術に触れるなど、脳に新たな刺激を与えるといいでしょう。
【忙しい人ほど脳も疲れている。機能維持のために休息は必須。】
最近は脳を活性化し、鍛えることばかりに注目が集まりますが、現代人は脳疲労を抱えている人が多いのです。その結果、本来その人が持っている脳の能力を充分に発揮できていない可能性が大いにあります。睡眠不足や過度な労働で脳は疲弊します。さらに、日中は心身の緊張・興奮状態が長時間続くことが多いので、自律神経はバランスを取ろうと過活動状態に陥るのです。自律神経の機能が低下することで、脳疲労は加速し、体の不調を招いてしまいます。脳疲労が慢性化すると、脳の老化のみならず、全身のあらゆる部分の老化を促進します。
そうならないためにも、日々脳疲労を抱えている多忙な現代人は、脳を「休ませる」ことに着目しましょう。大切なのは、脳疲労を解消してくれる良質な睡眠をしっかり取ること、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレスケアです。特に40代、50代は認知機能低下のターニングポイント。脳のケアを怠ると、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症のリスクも高まるので、疲れたときは脳を休めることを意識して、認知機能の維持に努めましょう。
『クロワッサン』1030号より
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