くらし

『森家の歳時記ー鷗外と子どもたちが綴った時々の暮らし』│ 金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

作家・陸軍軍医・父親……どれも完璧にこなす鷗外。

「恋人にするなら石川啄木と宮澤賢治、どっちがいい?」は難問だが(どっちも付き合ったら面倒なのが目に浮かぶ……)、「お父さんにするなら森鷗外と幸田露伴、どっちがいい?」は断然、鷗外じゃないだろうか。雑巾がけから味噌汁の味まで厳しく娘を躾ける幸田家の父ちゃんと、つねにお姫さま扱いしてくれる森家の甘ーいパッパ。対照的なふたりから幸田文と森茉莉が生まれたのだから、読者としてはどちらの父親っぷりも興味深いが……。

さて、森鷗外一家の年中行事を振り返る展覧会を見た。春になったら木彫りの雛人形を飾り、夏になったら海辺の避暑地で水遊び、秋は菊人形見物、冬は当時まだ珍しかったクリスマス! 経済力もさることながら、鷗外先生の徹底した「家族サービス」にクラクラする。

さらに今回、再認識したのは彼のワーカホリックぶり。次々と小説を発表しながら陸軍軍医としても縦横無尽に活躍し、ついにはトップに上り詰める。その後も帝室博物館総長や帝国美術院院長を歴任。ふつうの人の3倍くらい濃い人生だ。「一体いつ寝てたんでしょう?」と問うと、学芸員さん曰く「睡眠時間は2、3時間だったみたいです」。ひえ〜。

でも多忙だからこそ、子どもたちとの時間が貴重だったのだろう。前のめりに生きている人ほど、子ども、動物、虫、大樹、星など時間軸が違う存在に触れるとホッとするもんね。ま、根っからぐうたらなわたしとしては、父が森鷗外でも幸田露伴でもなくてホッとしている。

『森家の歳時記ー鷗外と子どもたちが綴った時々の暮らし』は文京区立森鷗外記念館(東京都文京区千駄木1-23-4)にて11月29日まで開催中。鷗外の日記や書簡、子どもたちの回想などをもとに、その暮らしや明治・大正期の風物を紹介。TEL.03-3824-5511 10時〜18時 第4火曜休館 料金・一般500円

金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『マル農のひと』(左右社)が発売中。

『クロワッサン』1030号より

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