くらし

汚いノート。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい

20年前から、使い終わったアイデア帳は捨てずにとってある。アイデア帳というほどのものではなくメモ帳のようなものだ。作品のアイデアも思いついた言葉も、スケジュールのようなことも雑な字で書いてある。

小学生の頃から丁寧に文字を書くことを良しとし、授業中に学んだ内容よりも、美しいノートを作ることの方に集中していた私は、ノートの1ページを使い終えた時、美しく見えなければ破って捨てていた。
その頃の私の字は、自分の美意識に見合うほど上手ではなく、悪戦苦闘していたのだと思う。どの教科のノートもどんどんやせ細り、最後には白紙のページしか残らなかった記憶がある。見直したいノートを作ることで、勉強ができるようになるはずだと信じていた。当然、そんなことでは勉強はできず行き詰ったが、その執着は高校終了まで続いた。

勉強ができなかった私は、美術方面への進学を志望し、一浪して美術系大学に入学した。そこで今までになかった多くの事に興味を抱くことができた。それから私のノートは変わった。
汚い字で書きなぐる。誰も読めないような汚い字で、一枚の紙が、カオスなレイアウトとなっていく。誰にも公開しないものなのだから汚くてもいい。ただ、それだけではなく、過去の自分の過ちを繰り返さない方法としての「汚いノート」だったのかもしれない。
あの頃、ほんの少し汚れてしまっただけで即ページを破り捨てていたのに、この汚いノートは20年も保管されている。誰に観られても恥ずかしいカオスノートは、自分だけがその存在を許すことができ、自分だけがその汚さに辟易しながら、それでもそこに書かれた内容を楽しむことができるものとしてこれからも残していく。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等については、facebookにて。https://www.facebook.com/imostudio.imo/

『クロワッサン』1030号より

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