くらし

【歌人・木下龍也の短歌組手】帰り道のカレーの匂いで泣きそうになる。

〈読者の短歌〉
帰り道誰かのうちの夕飯がカレーでなぜか泣きそうになる

(しろながす/テーマ「匂い」)

〈木下さんのコメント〉
知らない誰かが知らない誰かに向けたあたたかさや優しさを匂いで感じる。自分のためのものではないけれど、遠くのたき火を見つめるように、ほっとして泣きそうになる。触れられはしないけれど、それがあることで、まだこの世界は大丈夫なんだって安心する。僕も近所の家から「たかしー、お風呂わいたよー」って聞こえてくるお母さんらしき声に泣きそうになることがたまにあります。

〈読者の短歌〉
もういい歳だけど多分これからも、母の枕に鼻をうずめる
「末っ子でママっ子なわたしはお母さんのことが大好きで、夫や友達にもそれを公言しています。母の匂いってどうしてこんなに落ち着くんでしょう。当たり前なんですけど、自分が成長するにつれて年老いていく母を見ていると、ずっと一緒にいてほしいのに、とふと悲しくなります。」
(みはつ/女性/テーマ「匂い」)

〈木下さんのコメント〉
母の枕に鼻をうずめたときにひろがるまぶたのむこうの闇が、この世でいちばん安心できる闇。

〈読者の短歌〉
捨てやすさが決め手でした!と星5つIKEAのサメのレビューの欄に

(木村槿/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
特殊な考え方に思えますが、こう言われてみれば一生所有する気で買う物ってあんまりない。いつか捨てる物を買うならば「捨てやすさ」を購入の決め手とする合理的な人もいるんだろう。犬・猫・鮫のぬいぐるみのなかで最も捨てやすいのは人間の生活から最も遠い鮫、ということだろうか。

どんどん短歌を作って応募してください!(撮影:木下さん)

木下龍也
1988年、山口県生まれ。2011年から短歌をつくり始め、様々な場所で発表をする。著書に『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』がある。

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