どら焼きさんこんにちは。「人のためになることをしなさい」というお母さんの教え、素晴らしいですね。またこの教えを忠実に実行しようとするどら焼きさんも素晴らしい。きっと素直でがんばり屋さんなのでしょう。ところが、この生き馬の目を抜くシビアな現代社会においては、そんなどら焼きさんの善意を都合よく利用し、面倒事を押し付けようとする人たちがいるんですね。
ここでまず考えなければいけないことは、そもそも「人のためになること」とは何か、ということだろうと思います。
突然ですがどら焼きさんは、いわゆる「ダメ人間」と呼ばれるようなタイプの恋人と付き合ったことはありますか? もしなければ、ちょっと想像してみてください。とにかくお金にだらしがなく、定職にもつかないその日暮らしの恋人がいたとします。そんな恋人が「今日はどうしてもお金がいるから貸してくれない?」と言ってきた場合、どら焼きさんならどうしますか? 単純に考えれば、必要としている人に与えることは、少なくともその瞬間、その人の役に立つことです。けれどもどら焼きさんのお金だって有限だし、どら焼きさんがいつまでも彼にお金を貸し続けることはできないので、いくら恋人と言えどいずれ彼は仕事に就き、自分でお金を稼いで生活していかなければなりません。彼が重い腰を上げて仕事先を探すためには、そうしなければならない切実な状況が必要なはずで、頼んだらホイホイお金が出てくる限り切実さは生まれないでしょう。つまり、短期的、瞬間的に見ればお金を渡すことが彼のためになるけれど、長期的に見ればお金を渡さないことのほうが彼のためになりそう、ということです。
また別の例で考えてみましょう。フランスではしばしばいろんな人達がデモやストライキを行うそうです。中でも昨年末から今年にかけて実施されたマクロン政権の年金改革に反対するストは、鉄道会社らを中心になんと1ヶ月以上にもおよび、その間パリの主要な電車や地下鉄がほぼストップしていたそうです。
日本の首都圏の主要な電車がそれだけ長く止まったら……ちょっと想像を絶する大変さです。通勤通学ができなくなった人たちはやむなくリモートワークに切り替えたり、知人の車に乗り合わせたり、自転車通勤を始めたりと、コロナの流行より一足早く、新しい日常化を進めていた模様。
そんな不便を強いられながらもなんと、フランスでは多くの人がストライキの実施そのものには肯定的なんだそうです。なぜならそれは労働者の当然の権利だから。権力を持つ人たちだけの都合で労働者が軽視されるような決定があってはならない、ひとたびそれを許せば労働者はどんどん軽視され、今と同じようにそこで働き、継続してサービスを供給してくれる担い手がいなくなってしまうかもしれない。また労働者を軽視して良いという空気は別の業界にも派生し、ともすれば自分の分野も脅かされるかもしれません。そんな風に考えていくと、一時的にサービス供給が止められる不便をのんでもなお、労働者の権利を守ることは、長い目で見ればきっと自分達の利益につながる。そんな理解が根底にあるからこそ、不便を伴うストライキを多くの人が支持することができるのでしょう。
さて、もうおわかりですね。ダメ人間の恋人とフランスのストライキ。この一見全然違う次元の二つの話で私がお伝えしたかったことというのは、「人のためになること」にも、“今”その人のためになることと、“先々”その人のためになること、この2種類がある、ということです。
この上で、瞬間的、短期的に、今、その人のためになるものを求められるままにジャンジャン与えていると、善意は搾取され、簡単に「都合の良い人」になってしまいます。けれども逆に、本人さえ考えられないような長期的な視野でその人のためになることを考え、与えてあげることを心がければ、どら焼きさんは間違いなく「頼れる人」になっていくはずです。
ですから例えばもしまた今度、面倒な仕事を都合よく押し付けられそうになったとき、「面倒な仕事を押し付けられて嫌だな」と思うのでなく、面倒な仕事を簡単に人に押し付けるその人の将来について、ぜひ考えてあげましょう。そんなことを続けていたらその相手は先々で周りの人に嫌な思いをさせるでしょうし、万が一にもその倫理観のまま職場で出世し管理職になり権力を持つ側にでもなれば、なおさら悪びれず部下を利用するでしょう。表向きには甘い蜜を吸っているように見えるかもしれませんがその実その人は給湯室やトイレで部下から悪口を言われ、辞めて欲しいと憎まれ、全く信用されない裸の王様として白い視線にさらされ続けるんでしょう。それじゃああんまりにも可哀想です。ですから長期的に見てその人のためになることというのは、疑う余地もなく、こう言ってあげることです。
「自分でやれ」
素直でがんばり屋さんのどら焼きさんならきっとできます。お母さんの素晴らしい教えを守って、頼られる人を目指しましょうね。