くらし

映画『パヴァロッティ太陽のテノール』圧巻の美声と人生を謳歌する姿を再現。

  • 文・小田島久恵
人類史上最高の歌声が最新技術で蘇る。

「3大テノール」として一世を風靡したルチアーノ・パヴァロッティの艶やかで明るい声は、プロの歌い手たちにとって永遠の憧れだ。どうしたらあんな神のような美声が出るのか。人気・実力・カリスマ性ともに歴史最大のスターであり、どんな天才歌手も彼を超えることは難しい。

故ダイアナ妃とはチャリティ活動を通じて親友と呼べる仲に。

アカデミー賞受賞歴もある巨匠ロン・ハワード監督が23人の証言と、最新技術で再現した20曲の生前の歌声をもとに作り上げた『パヴァロッティ 太陽のテノール』は、2007年に亡くなった伝説のテノール歌手の生涯を生き生きと描き出す。パヴァロッティという人物を浮き彫りにするために、多くのインタビューを行うことは正しい方法だった。「他者の心の中でどう生きるか」がパヴァロッティの人生のテーマであり、他人を喜ばせ、幸福にするためにいつも笑顔を絶やさなかった。

1990年7月、ローマで行われたサッカーW杯決勝前夜祭で3大テノール歌手共演という夢の企画を実現。

有名なオペラハウスだけでなく巨大スタジアムを満杯にし、ロックスターと共演し、億という数のアルバムを売り上げた彼のキャリアは、つねに「他者との出会い」によって発展した。嫌われ者のマネージャーやきな臭い興行師ともビジネスを行い、当時「オペラ未開の地」であった中国でツアーを敢行した。ダイアナ元妃にプッチーニの『マノン・レスコー』のアリアを捧げ、夢中にさせてしまった人たらしぶりには舌を巻く。音楽家としてずば抜けた才能があったことは確かだが、それ以上に性格の力をフルに使って生きたのだ。

娘の難病手術を前に献身的に尽くす姿も描かれる。

二人の妻と愛人、前妻との間の三人の娘たちが語る言葉は印象的だ。葛藤はあっても全員にとって、パヴァロッティは理想の男だった。離婚後に初孫が生まれたときのことを回想する前妻の言葉には胸が詰まった。

歌唱シーンは驚きの連続。有名な『誰も寝てはならぬ』(『トゥーランドット』)、『星は光りぬ』(『トスカ』)も感動的だが、ハイC(高いドの音)を9連発する『連隊の娘』のトニオはパヴァロッティの名人芸だ。現代に再現された超美声に酔いしれたし。

『パヴァロッティ太陽のテノール』
監督:ロン・ハワード クラシック界の大御所や家族など23人の証言と最新音響技術で20曲に及ぶ歌声を再現して、その生涯を描くドキュメンタリー作品。9月4日より東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。

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『クロワッサン』1028号より

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