日本の美意識を宿した工芸の最先端に迫る。パナソニック汐留美術館の『和巧絶佳展』。
文・知井恵理
「工芸」と聞くと、どんなイメージが浮かぶだろうか。人それぞれとはいえ、多くは伝統や職人技などのどこか懐かしさを伴うような言葉を想像し、「時代の最先端」と思う人は少ないだろう。そんな従来の“工芸”の概念を見事に裏切ってくれるのが本展だ。
「現代の工芸の世界では、伝統工芸の素晴らしい技術や日本らしい美意識に根ざしつつ、そこに独自の手法を加えて新たな世界観を表現した、従来の枠にとらわれない工芸作品が次々に生まれています。そこで、工芸とも現代美術ともいえる“超工芸”作品と、それらを生み出す12名の若手作家に着目しました」(パナソニック汐留美術館学芸員・岩井美恵子さん)
第1章では、日本の伝統文化の価値を問い直す「和」の美をテーマに、レディー・ガガが履いて話題になったヒールレスシューズや、ポップな色彩が楽しい器などが並ぶ。
「見た目は奇抜に思えるかもしれませんが、根底にあるのは日本文化への理解や尊敬です。友禅染の技法や日本画の顔料、作家が独自に編み出した積層画法などを用いて日本の美意識を表現し、日本人だけではなく世界の共感を呼ぶ作品へと昇華させているのが特徴です」
第2章のテーマは、手わざの極致に挑む「巧」の美。たとえば、作家の見附正康さんが手がける九谷焼の加賀赤絵は、繊細な幾何学模様が特徴だが、どんな細かな線もすべて筆で描かれている。ほかの作家の作品も、実に緻密な手仕事ぶりがうかがえ、思わず感嘆のため息が漏れることだろう。伝統技法と現代らしいモチーフとの新鮮な融合も堪能したい。
第3章では、工芸素材の美の可能性を探る「絶佳」がテーマだ。陶土や鉄といった工芸素材は、私たちの生活においても身近で見慣れたものだが、まだまだ知らない美しさや魅力を秘めていることに気づかされる。
「出品作品の約3割が新作かつ初公開なので、現代における最新の工芸美を体感していただけると思います」
舘鼻則孝 《Heel-less Shoes》
花魁の高下駄の研究から生まれた靴。友禅染の技法と、喜多川歌麿などの浮世絵にも使われた色材の雲母を用いて、革に伝統的な文様を施した。2014年 個人蔵。
(C)2020 NORITAKA TATEHANA K.K.
深堀隆介 《四つの桶》
透明樹脂とアクリル絵の具を何層も重ねる「積層画法」という独自に編み出した技術で、生きた金魚のような立体感を実現。2009年 台湾南投毓繍美術館、台湾。
池田晃将 《電光十進玉箱》
漆黒の漆素地にレーザーで切り出したデジタル数字の螺鈿を配し、伝統技法と現代テクノロジーを融合。サブカルチャーの世界観を表現。2019年 個人蔵。
佐合道子 《とこしえ》
やわらかな粘土を細い口から絞り出すという陶芸の「イッチン」技法を応用。有機的な線や粒が生まれ、作品が生きているかのような表情に。2019年 作家蔵。
写真提供:池田ひらく
パナソニック汐留美術館
(東京都港区東新橋1・5・1 パナソニック東京汐留ビル4階) TEL.03-5777-8600 営業時間:10時〜18時(9月4日は〜20時。入館は閉館30分前まで) 9月16日休 料金・一般1,000円
『クロワッサン』1028号より
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