小学生の時に小説家になると決め、20代後半でその思いを実現。著書は400冊以上にものぼる瀬戸内寂聴さんが、人生で最も情熱を注いでいることといえば“書くこと”にほかならず、98歳になった今もそれは変わらない。
「現在、瀬戸内は5つの連載を抱えていて、締め切りが毎日あるような状態。一日中、机に向かっています。ただ、体力的にも衰え、思うように筆が進まないことも。『もうしんどい』『書くのをやめようかな』なんて言うこともありますが、それでも自分が納得できるまで、今でも徹夜をして原稿を仕上げている。執筆に関しては、決して手を抜くことがない。いつでも『書くことは快楽だ』と言っています。『ペンを持ったまま死にたい』とも。これほどまでに情熱を持って仕事をしているからこそ、98歳の今も現役作家として書き続けていられるのでしょう」(「寂庵」秘書・瀬尾まなほさん)
ペンを捨てようかと葛藤もある中で、やはり書くことを選択する。そこまで寂聴さんを執筆へと駆り立てるものとは、一体何なのだろう。
「自分の中でいい小説が書けたという満足の瞬間があり、その快楽を捨てきれない点があると思います。そして担当の編集者に褒められることも、書き続けるうえでのモチベーションに。『おもしろかった』と言われると、本当にうれしそうなんです。また、本の売れ行きも、けっこう気にかけています。『本が売れるなら宣伝でも何でもやるよ』といまだに言っているほど。やはり本が売れることは作家にとっての喜びだと思いますし、それに何より心血を注いで書いた小説をたくさんの人に読んでもらいたいという気持ちが大きい。とくに本がなかなか売れない今の時代に、進んで買ってくださる人がいることは、生きがいになるのだと思います」
また、尽きることのない創作意欲が窺えるこんなエピソードも。
「瀬戸内は、自分で小説を書くのはもちろん、文学の話をするのも好きなんです。なかでも作家さんが相手となると、とても楽しそうに話しているのがよくわかります。以前、田中慎弥さんが寂庵にいらした時に、短編小説よりも短い掌編小説を書いたという話をされたんです。すると瀬戸内はそれに刺激を受けて、『私も書きたい』と文芸誌の『すばる』で掌編小説の連載を始めました(のちに『求愛』として発刊)。才能ある人に触発され、奮起するところは瀬戸内らしいと思います」