そうか今、ボクらは試合中なんだ。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令された今年4月、漫画家のしりあがり寿さんが新聞に寄せた一つのコラムが反響を呼んだ。
「経済回復も叫ばれるなかで、一人一人が感染防止のために行動しないといけない。もどかしい自粛期間をどうとらえれば前向きになれるのかなと思った時に、この状況をスポーツの試合に例えたらどうかと思ったんです」
コロナ禍の日本をウイルスという見えない敵を向こうにした「試合中」と考えた時、必要なのはみんなが一丸となってやる気になれるルールを作ることだ、としりあがりさんは言う。
「未知のウイルスだもの、そりゃあ怖い。でも怖いがあまりに個人が個人を取り締まることになったら、誰かの自由や権利を奪うことになってしまう。だからこれを一つの〝試合〟と考えて、公のルールと試合時間を決めれば、一人一人が選手として前向きにこの状況に立ち向かえると思ったんです」
そのときの時代を冷静に見つめる視点で、これまでも多くの名作を生み出してきたしりあがりさん。特に2011年に発表した『あの日からのマンガ』では、東日本大震災、いわゆる「3・11」後の世界を独自のユーモアと鋭さで描き、人々に衝撃を与えた。
「明日がどっちに行くかわからなくなったこの感覚は、3.11と共通点があるけれど、いまはもっと状況がとらえがたい。あの時は、歩いていた道が背後でザクッと分断されたような恐怖感の中に〝それでも未来は日ごとによくなっていく〟という希望があった。でも今回は世界中が大きな蟻地獄に落ちていくような……。さらに第2波、第3波、経済的なダメージも未知数。こうなると以前の生活に完全に戻ることはないのでは、と思えてしまう」