東直子さんの新作短歌で、“これまで”と“これから”を考える。
長引く家時間のなかで、歌人が考えたことや詠んだ短歌とは? 春先からを振り返りつつ、これからも見据えた12首を時系列で紹介します。
撮影・三東サイ
5月10日|家族ではないのだなあとオンライン上の 君らに手をふっている
友人たちとZoomを使ったオンライン飲み会に参加しました。しゃべっている間はそれなりに楽しいのですが、リンクを切るとなんの余韻もなく、一瞬で一人の現実に引き戻されます。味気ないというか、あっけないというか。現実的な隔たりを実感してほんのり淋しくなりました。
5月16日|キーウィの黄のやわらかさ掬いつつ 生まれた国のコロナ対策
免疫力を高めるために毎日フルーツを食べています。ある日、ゴールデンキーウィを食べつつ、原産国のニュージーランドのコロナ対策が優秀だったことを思いました。生まれた国、住んでいる場所の対策に左右される私達。果実の柔らかさに、微妙な思いを託しました。
5月25日|わたくしのバブ冠のように溶け身体が 透けぬ湯にしてくれる
先日購入したバブはひのきの香りでほんのり乳白色。これが溶けた湯は、自粛生活でゆるんでしまった悲しい身体を直視せずに済みます。題詠「冠」で作った歌ですが、バブが溶けていく様子と、冠が溶けるイメージが重なり、時代が変わっていく感覚にゆるやかに結びついたのでした。
5月28日|待つという微熱を帯びてゆうぐれの 二重の虹がここにも届く
この日の夕方、雨が上がり、空に二重の虹が現れました。ニュースでも見ましたし、SNS上にいろいろな人が虹の写真をUPしていました。緊急事態宣言が解除され、日常が戻る日を家の中でひたすら待ち続けていただけに、大らかな虹は、空からの祝福のようでした。
5月30日|生きのびてなにがしたいかしたくないか 魔法瓶からあふれでる湯気
長い非日常生活もようやく終わろうとしています。新型コロナウイルスは、当面、共存していくしかないようです。そのための「新しい生活」が提唱されました。制約のある中で、今後どのように時間を使うか、自分の内側から欲するものを感じつつ進んでいきたいと思いました。
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