犬山紙子さんが選ぶ、大人に希望をもたらす3冊の絵本。
撮影・黒川ひろみ
『さくらもちのさくらこさん』
余裕がなくなってしまった、そんな時にこそ読みたい。
さくらこさんは気分屋で当たりも強く意地っ張り、他のおやつたちにも意地悪な態度をとってしまう。とてもじゃないけど性格が良いとは言えません。でも絵本の主人公がみな正しかったら、そうじゃない自分をどう受け止めて良いかわからなくなってしまう。それは大人も一緒で、誰でも性格が悪くなってしまう時期があるわけで。こういうキャラクターは絵本で罰を受ける対象として描かれがちでしたが、この本はその弱さもコミカルなタッチで包んでくれます。
『あるくくま』
全ての人に贈りたい、おまじないのような言葉。
この絵本は非常に抽象的。名前のないくまが「どこか」を目指してどんどん歩いていきます。その間、予想外の出会いやハプニングが起こり、それはまるで人生のよう。抽象的がゆえ自分を投影できるのりしろは広大で、窮屈じゃない。そして最後の一節がおまじないにしたいくらい素晴らしいんです。〈ぼくはばかではない りこうではないかもしれないけれど、ぜったいばかではありません。おわり。〉。この言葉はきっと全ての子どもと大人に必要だと思います。
『ぼくの ポーポがこいを した』
どんな恋をして生きるかは、その人が自分で決めること。
恋愛って異性間の適齢期の人間同士だけのものじゃない。この作品で恋をするのは、おばあちゃんとぬいぐるみのポーポ。主人公はポーポの持ち主の男の子。最初は「へんだよ」「ぜったいへんだ」と拒絶します。でも、彼の2人のママはこう言うのです。〈わたしたち、ママのみかたよ〉〈そうよ。おばあちゃんのこいは、ばあちゃんのものだもの〉と。そうです。誰かの恋はその誰かのもので、他者に無責任に口出しをされるものじゃない。誰かの生き様も、誰かに無責任に口出しされるものじゃない。
ポーポと結婚したおばあちゃんの背筋がまっすぐ伸びているように、自分の恋や人生は、自分が背筋を伸ばして、社会にどんな圧があろうとも、自分の幸せを選択していいものなんですよね。不安や孤独に押しつぶされそうになるとそんなことを忘れてしまう。だから大人にもこの絵本が必要だと思っています。
犬山紙子(いぬやま・かみこ)さん
コラムニスト。執筆業のほか、TVコメンテーターとしても活躍。近著に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社)が。3歳の娘がいる。
『クロワッサン』1025号より
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