くらし

【紫原明子のお悩み相談】仕事を続けられる自信がなく、プライベートもうまくいきません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが、読者のお悩みに答える連載。今回は仕事も恋愛もうまくいかない女性からの相談です。

<お悩み>

これまで、仕事には真面目に一生懸命取り組んできました。 仕事以外では、朗らかに人付き合いが出来るのですが、仕事になると、真面目過ぎるのが災いして、人間関係がうまくいかないことがあります。 去年は周りにも恵まれず、孤立して本当に辛い思いをして、一時期職場に行けなくなりました。 それから、人事異動があって、周りは変わって同じところに復職したのですが、前のように仕事にも取り組めなくなってしまいました。毎日、もう辞めたいと思いながら、仕事に行っていますが、これから先、続けていける自信がありません。
他にやりたいこともありませんが、転職すべきでしょうか? 30前で、結婚を考えていた彼氏とは、両親の反対にあい、泣く泣く別れ、絶望し、その後、他の人と長く不倫関係となり、ようやく別れたときには、35歳、それから婚活を始めましたがうまくいかず今もお見合いは登録しているのですが、殆ど話も無く…… 仕事も転び、支えになる人も居らず本当に孤独で立ち直るすべが分かりません。 ひと言だけでも、どうかよろしくお願いします。

(みかん/45歳、独身、女です。)

紫原明子さんの回答

みかんさんこんにちは。とてもつらい中、お手紙を送ってくださりありがとうございます。

人生につらい時間さえなければどんなに良いだろうとよく考えます。ずっと調子がいいままならいいのに、どういうわけかそうもいかず、思いがけずいろんなことが次々と起きて、行く手を阻まれてしまう。人の一生をそんな意地悪に設計することで一体何の得があるのかと、ついどこぞの神様を恨みたくもなります。でもその一方で、何しろ私は根が怠け者なので、つらくて苦しくて、もうどうしようもないということにでもならないと、きっとずっと同じ場所から動こうともせず、いつまでも同じことを続けるのだろうと思います。そのうちすっかり周りの景色に飽きてしまったら、なんとか退屈を紛らわすために芸能人のゴシップに一喜一憂してみたり、どうでもいい人の取るに足らない一言をとんでもないところまで深読みしたり、そんな風にして、日々を過ごしたりするようになるんだろうと思います。……で、それに比べたら、つらさや苦しみから逃れるためにああでもないこうでもないと試行錯誤をする、その課程には少なくとも、自分の心や体に直接働きかける体験がある。ここでもないあそこでもないと居場所を変えた先々で、新しい景色を目にすることができる。

つらさや苦しみから自分をなんとか救い出したいと思ったとき、私たちの目の前にはきっと、新しい靴が用意されているのだと思います。その靴を履くか、履かないかを決めるのはおそらく自分だけ。また、勇気を出して履いたとしても、新しい靴はまだ私の足の形に馴染んでいないから、最初のうち、ところどころ痛んだり、靴ずれを起こしたりするかもしれません。こんなことなら前の靴を履いていればよかったと思うことがあるかもしれません。それでもなんとかその靴を履いて歩き続けているうちにきっと、その靴を履かなければ到達できなかった場所に導かれている。私はそんな風に思うのです。

「場所を変えたって結局自分自身の問題」なんて言う人がいるかもしれません。でも、みかんさんの場合はそうではないと私は思うんです。いただいたお手紙から、みかんさんはどうも、すべてを自分のせいだと思い、自分でどうにかしなければならないと思っていらっしゃるようにお見受けします。

すべてを自分のせいだと思うこと、人を頼らないことは、一見責任感があって立派なようですがその実、周りの人や環境を全く信頼していません。他人を信頼しないから、他人からも信頼されない。他人を頼らないことは、自分から悪いスパイラルを生み出し、自分を孤独に仕向けてしまいます。もちろん、みかんさんご自身にだって自分を幸せにする義務があるけれど、同時にみかんさんのご両親や、みかんさんの仕事仲間、友人、恋人など、みかんさんと関わるすべての人たちだって、みかんさんを幸せにしてあげなければなりません。そしてみかんさんもまた、周囲の人の幸せに寄与しなければなりません。互いにその務めを負い合うこと、それを堂々と望むことが、他者と生きていくということだと私は思うのです。

だから、今までみかんさんがそんなにもつらかったのは、みかんさんの周囲の人や環境にだって少なからず原因がある。おかしな話に聞こえるかもしれないけれど、そんな風に思うことが、周りの人や環境を本当の意味で受け入れ、信頼するということでもあるのです。そんな人たちは見限って、信頼できる人や環境を探しにいきましょう。転職だって、されたらいいと思います。新しい場所、新しい景色の中で出会った人は、少なからず何かしら、みかんさんの新しい一面をみつけだしてくれるはずです。見つけてね!と期待して飛び込んでいきましょう。もし、見つけてもらえて嬉しくなったら、今度はみかんさんもその人の新しい一面を見つけてあげましょう。そうやって、信頼関係を新しく作っていきましょう。

みかんさんの世界を色彩豊かなものに一変させてくれる誰かは必ずどこかにいます。そんな誰かとの出会いを信じて、期待して、みかんさんの目の前に用意された靴に、足を入れてみませんか?
みかんさんの勇敢なる最初の一歩を、陰ながら応援しています。

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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