40年経った今も現役、テレビ型ラジオの思い出。│ しまおまほ「マイリトルラジオ」
幼少期に住んでいた共同住宅が取り壊されることになった。小学1年生になってすぐに、近所にある母の実家へ越して以来は作業部屋兼荷物置き場として借りていた。
しかし、去年になって取り壊しの通知があり、今年3月に退去が決まった。いざ、荷作りを始めてはみたものの、物が捨てられない我が家。当時のまま残していた荷物が大半で、懐かしさに手を止めながらの作業は予定よりも大幅に時間がかかってしまった。
中でもテレビ型ラジオの存在感は大きい。早川電機工業(現シャープ)製「シネマ・スーパー」という代物で、文字通りテレビの形をした真空管ラジオ。
スイッチを入れるとブラウン管風の窓に描かれたイルミネーションが光る。テレビのなかった当時、3歳のわたしはこのラジオが将来テレビに変身するものだと思い込んでいた。
越してからも、両親は作業がある時などはこの部屋にこもり、シネマ・スーパーでFENを聴いていた。40年経った今も現役だ。今回の退去で父はそれを大切に持って帰り、自宅の廊下に飾った。
子どもの頃からレトロな雰囲気だったシネマ・スーパー。発売は昭和31年。我が家以外で見かけたことがない。興味本位でネットを検索。「シネマ・スーパー 販売」すると……オークションで29万円で落札されているのを発見。おお……!
いやいや、思い出は値段には変えられない。これはずっと手元に……置いて……おく……と、思う。おそらく。
しまお・まほ●エッセイスト、漫画家。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。新刊は『スーベニア』(文藝春秋)。
『クロワッサン』1025号より