くらし

キャリアウーマンと豚バラ。│ 束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい

大学生のとき「キャリアウーマンになりたい」と本気で思っていた。経済的に自立した女性に憧れ、美術大学という専門的な大学に通わせてもらいながら、「自分のスキルを活かした職種を考えて会社を選び就職活動をする」というのではなく、「美術系大学生が目指すキャリアウーマンっぽい仕事と言えば、広告代理店」というような軟派に聞こえる考え方で会社を選んだ。けれど、真面目にそう思っていたので、就職活動への取り組み方は真剣だった。

当時の私が思い描いた「キャリアウーマン」はドラマに出てくるようなバッチリメイク、TPOをわきまえた服装で通勤電車から降りると、行きつけの店で買ったコーヒーを片手に持ちながら会社まで大股早歩きで歩くような人。文字にすると、美大生のくせに想像力のかけらもないイメージで恥ずかしくなるが、このイメージにピュアに憧れていた。当時、友人がタロット占いを趣味にしていて、就職が上手くいくか占ってもらったが、結果のカードは馬車が火だるまになっているカード。友人は「就職活動は失敗するけれど、思ってもない方向で悪くない結果を得られるよ」と言ってくれたのを覚えている。その後、就職活動は失敗。現在まで歩んできた美術家としての道が友人の言っていた「思ってもない方向」だったのか。

あの頃、「キャリアウーマン」と同じくらい真剣に、こうありたいと考えていた将来の自分の姿を思い出した。それはスーパーで何の躊躇もなく「豚バラスライス」を買っている自分だ。豚バラスライスは貧乏学生の私には手の届かない存在で、ぐちゃぐちゃに容器に入れられたお徳用豚肩切り落としを手にしながら真っ白い脂身をミルフィーユのように幾層も携え、容器に美しく並んでいる豚バラスライスを恨めしそうに眺めていた日々。今は常に冷凍庫に豚バラスライスのストックが入っている。「思ってもない方向で悪くない結果」はこれだったのかもしれない。毎日食べる豚バラは、あの頃思い描いた、陳腐なキャリアウーマンのイメージを丁寧に消しゴムで消し、この豚バラにつながる私の大切な分岐点に蛍光ペンで印を付けていってくれる。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は、https://www.facebook.com/imostudio.imo/ にて。

『クロワッサン』1023号より

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