いまの雰囲気のなかでいちばん懸念すること。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
この原稿を書いているのは5月12日。当初6日までと言われていた緊急事態宣言が延長されましたが、何となく世間が宣言前の状態に戻れないかと動き出したくなっている、そんな雰囲気です。この号が書店に並ぶ頃にはその流れが軌道に乗り始めているのか、はたまた感染拡大が再燃しているのか……。
スポーツ・文化・芸能など、大勢が集まることを前提とする催しも、予想を超える長期にわたって打撃を受けています。もちろん私達落語界もです。みんな明るい話題が見つからないありさまですから、話をする機会があれば「仕方ないね」「頑張るしかないよ」とため息まじり。
さらに会場にお客さまが足をはこんでくださるようになっても、しばらくは満席の状態での開催は無理だろうというのがもっぱらの噂。座席で直接に隣り合わないよう一席おきに座っていただくとか、それでも前後の間隔が近すぎると不安があれば、一列おきか。最大でも客席の半分、どうかすれば4分の1のお客さましか入場できないことになります。
そうなると最大の懸案は「笑いにくくなる」ことです。
人間は不思議なもので大勢が密集して、周りが笑っていると安心して声を出して笑えるものだそうです。隣の人が笑って体を揺らす、その振動が伝わって笑いも伝播するということもあるかと。前も後ろも右も左も、充分すぎる空間があると不安で笑えないかも。しかも高座の咄家のツバが飛ばないように舞台にアクリル板でも立てられたら刑務所の面会みたいでねぇ……落語日和、まだ遠いようです。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は公式サイトにて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1023号より