ほうれん草カレー【久松農園のまかないレシピ】
撮影・キッチンミノル、久松達央(風景)、柳原久子(料理、人物) 文・角田奈穂子(フィルモアイースト)
しみじみと食べる喜びを感じる味の深さ。
久松農園
久松達央(ひさまつ・たつおう)さん
1999年に起業。若手農業人の育成にも注力。著書に『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)など。『久松農園のおいしい12カ月』(A&F)にも取材協力。
茨城県土浦市で100品目以上の野菜の有機栽培をしている久松農園は、レストランのオーナーシェフや個人宅配の顧客に熱烈に愛されている。
理由は、野菜を手にした瞬間に気づく。力強い香りが鼻をくすぐるのだ。嚙みしめると甘みや苦み、辛みの輪郭が際立ち、旨みの余韻が心地よく舌に残る。
オーナーの久松達央さんは、「野菜のおいしさを決めるのは、品種、栽培時季(旬)、鮮度の3要素。健康に育った季節の野菜を、畑から採りたてで直接お客様にお送りするのが、おいしく食べてもらう最も合理的な方法です」と話す。
天候に苦労する露地畑での栽培にこだわるのも、おいしい野菜を作るため。とくに冬は、畑を吹く冷たい風が白菜やねぎなどから水分をほどよく奪うことで、旨みを凝縮してくれる。
そんな久松さんの野菜の食べ方は、加熱することが多い。みずみずしさが命の春夏は生で食べる野菜も豊富だが、秋冬になると、ぐずぐずになるまで煮込んだり、オイル蒸しなどで食べることが増える。
料理製作をお願いした大久保朱夏さんは、久松農園の魅力をよく知る一人。農園のレシピサイトの料理製作も担当している。
大久保さんは、押し麦のスープを「久松農園らしい一品」と言う。キャベツやにんじんなどをコトコト煮たスープには、野菜から出た旨みがたっぷり。そのだしのおかげで、塩だけで味が決まるからだ。
「久松さんの野菜は味が深いので、ゆでただけで充分においしい。調理や味つけもシンプルでいいんです」と大久保さん。また肉や魚に負けない存在感があるので、組み合わせると旨みが複雑化し、より味に深みが出るとも。
久松さんは、「ちゃんと食べたいけれど料理する暇がない人にこそ、うちの野菜を届けたい。味に力のある野菜があれば、そのまま焼いたり、煮たり、簡単な調理で満たされる一品になります。そんな料理が家で食べられたら、救われますよね」と話す。
今回の料理も香りが食欲をそそり、野菜本来のおいしさを味わう幸せをしみじみと感じるものばかりだ。
料理をした人
大久保朱夏(おおくぼ・しゅか)さん
食のクリエイター・ライター。シンプルな料理のアイデア提案や食生活・健康をテーマに執筆。久松農園のレシピサイト「VegeRecipin」も担当。
『クロワッサン』1021号より
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