くらし

紫原明子さんが長引くステイホーム対策で家の中に設置した2つのもの。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さん。外出自粛が求められるいま、家の中にはある工夫が必要だと提案します。
  • 文・紫原明子

なかなかしんどい日々が続いております。みなさん、体と心の調子はいかがですか?

つい数ヶ月前までは、ネットの時代だからこそたまのネット断食が大事、なんてことを言ったりしていたわけですが、新しいウィルスがついに日本でも暴れだし、これまで通り外出したり、人と集まったりすることが極めて難しくなった今、インターネットは最早嗜好品の域を越え、私達のライフラインとなりました。初めのうち、何か足りない気がしていたオンライン飲みだって、凝った化粧はしなくていいし、終了5秒でベッドに潜り込めるし、慣れれば案外悪くないもんです。

自らの適応能力の高さに他人事のように驚かされる一方で、このところどんどん見過ごせなくなってきたのはほかでもない眼精疲労です。仕事も打ち合わせも飲み会も全部パソコンの中でやるから、気づけば一日中パソコンやスマホのモニターを凝視し続けているんですよね。

子供の頃、お母さんが言ってました。
「1時間テレビゲームしたら、5分間は山を見なさい」

実家は田舎だったので、窓の外には当然のように山がそびえていたのです。ですので私は結構律儀に、ゲームの間に山を見てました。ところが今は色々あって都市部で暮らしているので、窓から外を見てもそこにあるのはビルばかり。山は見えないんです。好きで選んだ住まいではあるけれど、これだけ目ばかり使っていると、やっぱりつい山を欲してしまいます。

そこで我が家ではこのところ、花屋さんで花でなく木を買うようになりました。買うときには、狭い家に置くのが不安になるくらい、大きめの枝を買います。

これをもって「山」です、というのはさすがにはばかられるので謙虚に「森」と言っています。限られた空間の一定部分を緑が占めたら、そこはもう森と言っても過言ではないでしょう。狭い部屋に四方八方に伸びる枝は人間のスムーズな移動を妨げ、私が枝を買って帰るたびに子供達は渋い顔をします。だが、それでいいんです。なぜなら自然というのは決して優しくないから。人間は自然を前にすればいつだって無力、そんな摂理を家にいながらにして子供達に説くこともできます。私はこの木を飾る行為を「概念森を作る」と呼んでいます。

一方で、この長引く自粛生活で私達が手放さざるを得なかったものは、何も自然と接する機会ばかりではありません。せっかく都市部に住んでいるのに、粋なバーでお酒を嗜んだり、暗闇の中で踊ったり、そんなアーバンライフともまた随分とご無沙汰になってしまいました。今にも息が詰まりそうな現実を受け止めることができず、私は先日、つい衝動的に買ってしまいました。

ミラーボールです。しかもこのミラーボール、ただのミラーボールではなくスピーカーでもあるのです。Amazonで3480円。この値段でスマホやパソコンとBluetooth接続が可能です。

正直言うと当初、買ってもすぐ使わなくなるかもな、と懸念していました。ところが蓋を開けてみるとそれは杞憂で、信じられないことに毎晩使っています。というのも家の中で四六時中過ごすようになった今、ある面でこのミラーボールが、オンとオフの切り替えスイッチになってくれているんです。夕食後にリビングの照明を落として、代わりにこんな玩具みたいな照明をオンにして好きな音楽を流す。そうするとちょっと肩の力が抜けるんです。オンライン飲みの背景にゆらゆらさせているのも結構いいですよ。言うならばこれは概念バー、あるいは概念ディスコといったところです。

自由な移動が制限されている今、私達の精神の健やかさを保つ鍵は、家の中にいかに家でない世界を作れるかにかかっていると言えるでしょう。マイケル・ジャクソンなら家にテーマパークそのものを作れたでしょうが私達はそうもいかないため、概念に頼るよりほかありません。木、ミラーボールなど、新たなツールを手に入れて、みなさんもぜひ、見慣れた室内に新しい世界を構築してみてください。

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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