くらし

あらためて気づく、「お元気ですか?」のちから。【 #クロワッサンの広場 】

ブログやSNSはやりたくない、でも写真と文章で表現したい。そんなあなたにぴったりの投稿企画「クロワッサンの広場」がスタート。初回は現在募集中のテーマ「ステイホームを充実させる知恵」に寄せられたエッセイを紹介します。投稿者のてっぴーさんが気づいた、言葉の素晴らしさとは?

今年の始めに引越しをした。思い立ってすぐ大家さんに連絡をして、一ヶ月後には新居での生活が始まった。

何をするにも腰が重く、めんどくさがりの私は就職のタイミングで引越した家に4年住んだ。家賃の安さ以外にいいところはなかったけど、新しい部屋を探して大量の荷物を箱に詰めて……という一連の作業は想像するだけで気が滅入る。私が抱えているたくさんの惰性で続くものの一つであり、もっとも象徴的なのがあの部屋での生活そのものだった。

急に引越しを決意したのはある人の影響が大きい。学生時代にアルバイトをしていた本屋の先輩の言葉だ。

その人は自分より4つ年上で先に社会人になったフリーターだった。その本屋の仕事は大変な割に時給が安かった。「腰が痛い」と「お金がない」が口癖のような人だったけど、住空間にはお金を惜しまず2年契約の部屋を2年ごとに転々とするような人だった。

その先輩とも会わなくなって数年が経ち、私も先輩と同じように気分転換のためだけの“エンタメ引越し”をした。効果は絶大だった。今まで電車からなんとなく眺めるだけの風景の中に今は自分の部屋がある。住んでいる部屋と街を変えることで違う人生を生きるチャンスを得たような気持ちになった。今まで同じ部屋に4年も住んだことを後悔するほどだった。

新居での生活が始まってほどなくして極力家にいることを求められるようになった。本を読んだり片付けをしたり、家でやりたいことは山ほどあったので苦痛ではなかった。それでも、時々の買い物で外に出ると普段は普通に買えるものが買えなかったりと不安になることもあった。ニュース番組が伝えることもいいことばかりではなかった。そんなとき気になったのが引越し貧乏の先輩のことだった。

先輩の部屋に遊びに行ったことがある。都心から離れている分、緑が多くゆったりした雰囲気の町の、駅から歩いて15分、そしてなぜか一人暮らしなのに2部屋もある家に住んでいた。自分はその時山手線の内側の駅から3分の部屋(先輩の部屋より家賃は安い)に住んでいたので部屋選びの基準の真逆具合が新鮮だった。大きめのまな板くらいしかない画面のテレビも自分では絶対に買わないものだ。そのテレビを見ながらハッピーターンを食べた。
先輩になんでそう頻繁に引越しをするのか聞いてみたことがある。
「気分転換に決まってるじゃん」。
二十万弱のお金をかけて? お米ともやしを主食にしてまで貯めたお金ですること? その時は理解できなかった。

何年か前に一度食事に誘って返事がなくそれっきりになっていた。自分発信のメッセージに被せるように「お元気ですか?」と送ってみた。少し時間が空いてから「不安だけど元気」という旨の返信があった。
今でも接客業をしているそうで毎日職場にいかなければいけないのが辛いと。メッセージから不安さがしっかりと伝わってきたので「困ったことがあったら言ってください」と伝えると「ありがとう」と返事があった。
こんなに素直にありがとうという人だっけ? 数年越しに先輩の新しい一面を見た気がした。

それにしても「お元気ですか?」、なんていい言葉だろう。家にいる時間が増えて結果的に気持ちに余裕ができたおかげで気づけたのは良かった。これからは忙しくてももっと積極的に使おうと思った。それから、自由に外出できるようになったらまた先輩の家に行ってみたい。今はどこに住んでいるのか。まだ部屋で梅酒を漬けているかな。その時まで家でじっと待っていよう。(てっぴー)

編集部からひとこと。

家にいる時間が増えると、なぜこんな小さなことを思い出すのだろう? と思う機会が増えたりします。おそらく、その小さなことこそ、自分にとって本当に大切にしたいものなのでは、と気づくことも多々。
この機会に、心に浮かんだあの人に「お元気ですか?」を届けたい……そんな気持ちにさせてくれるリリカルなエッセイ、ありがとうございました。言葉のエール、今こそ贈りあいたいものですね。(編集部のぐぽん)
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