くらし

髭男爵・山田ルイ53世さん、ステイホーム中に受けた長女の神対応にしみじみ。

  • 文・山田ルイ53世

そんな経緯もあって、家の中でトランポリンとか、自宅前での縄跳びなど、娘の運動不足を解消すべく、色々腐心してきたが、やはり限界があるので、数日に一度、ウォーキングをすることにした。

とは言え、公園に行くのも何だか憚られるし、近所の緑道は犬を連れたマダムとジョガーで定員オーバー。
仕方がないので、人通りの少ない路地を選び、住宅街を徘徊することが多い。

(これ、“親子の空き巣”に見えへんかな……)
などと気が気でないので、その辺の住人を装うべく、“ちょっとそこまで……”感を醸し出しながらの散歩となる。
これが、中々ハード。
何しろ、約1時間の行程、しかも早歩きだ。
都会育ちの7歳と、100kgを越える体重の中年男のコンビには少々キツく、家に辿り着く頃には、もうヘトヘトである。

その日、“じごく”(長女はウォーキングをそう呼ぶ)から無事帰還し、リビングでのんびりテレビを眺めていると、
「プァ……プア―!!(パパ―)」
と次女(生後10カ月)が囲いの中ですっくと立ち上がり、ジーっと此方を見ている。
ちなみに、少し前から“掴まり立ち”を卒業し、自力で立てるようになっていた。
“抱っこ”をご所望かと、柵を跨いで近付くと、
「プァプァ! プァプァ!!」
と大興奮。

生き別れの父と再会したかのような歓迎を受け、此方も満更でもない。
赤ん坊の脇に両手を滑り込ませようと身を屈めたそのとき、
(……えっ!?)
と我が目を疑った。
次女の右足が“スッ”と、一歩前に。
続けて、左足を“スッ”。
更に“スッスッ”と右足左足で計4歩……歩いたのだ。

その後、
“ドスン!”と尻餅をつきケラケラと笑っている次女に、様々な想いが込み上げ、
「ママー!なーちゃん(次女のこと)歩いたよー!!」
と洗濯中の妻を呼ぶと、
「えー! ビデオビデオ!!」
と大騒ぎ。
「クララが立った!」どころの話ではない。
次女を中心に、
「凄いねー!」
と夫婦2人で盛り上がっていると、突如気配を感じた。
……長女である。

隣の部屋で、机に向かっていたはずの彼女が、いつの間にか傍らに。
恨めしそうなその表情に、何故か後ろめたくなった筆者は、妹が歩いたこと、しかも4歩もだなどと慌てて言い訳、いや、説明するも、
「もーちゃん(長女のこと)だって、今日いっぱい歩いたよー!」
と頬を膨らませご立腹である。

妹が生まれてこのかた、自分がないがしろにされているとの不満が溜まっていたのかもしれない。
加えて、実際その日、長女は頑張っていた。
筆者が装着した万歩計で5千歩だったから、彼女の歩幅で換算すれば、7、8千はいっていただろう。
(ちょっと、デリカシーが足りなかったな……)
と反省し、
「そうだねー、もーちゃんも今日凄かっ……」
と何とか宥めようと試みたが、全ては、要らぬ気遣いだった。

「あっ、でももーちゃんは“さんぽ”だから、なーちゃんの方が1ぽ多いね!?」
と筆者の台詞を遮った長女が、ニコニコし始めたからである。

“4歩―3歩(散歩)”というとんちの利いたジョークもさることながら、妹に華を持たせてやったということに親として驚く。
それまでの彼女なら、いつまでも愚図っていたに違いないのだ。
(成長したなー……)

妹が1歩踏み出した日に、姉は1歩下がることを覚えた。
そんな記念すべき日に立ち会えたのは、「StayHome」様様……と言えなくもない。

山田ルイ53世●お笑いコンビ、髭男爵のツッコミ担当。本名、山田順三。幼い頃から秀才で兵庫県の名門中学に進学するも、引きこもりとなり、大検合格を経て愛媛大学に進学。その後中退し、芸人へ。著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)、近著に『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。
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