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昔の“疫病除け”のおまじない噺を一席。│柳家三三「きょうも落語日和」

イラストレーション・勝田 文

昔の“疫病除け”のおまじない噺を一席。│柳家三三「きょうも落語日和」

先日お目にかかったある先輩、寄席の世界の今昔の資料を集め歴史を調べて記録することをライフワークとしておいでです。

今般の新型コロナウイルスの流行で落語家の仕事にどんな影響があったか記録しておきたいというので、落語会などのキャンセルの状況を私個人の場合ということでお話ししました。そのときに「昔の資料にこんなのがあるよ」と教わったのが、私たち柳家の噺家の大先輩、三代目柳家小さんの話。この師匠は夏目漱石にその至芸を絶賛された名人です。

ある年「お染風邪」という病気がはやり、噺家にも多く病人が出た。寄席の出番の穴を埋めるために達者な者があちこち掛け持ちして大忙し。

若き日の小さんは一晩で二十七軒の寄席を廻ったこともあるとか。この病が蔓延している当時、多くの家の入口に「久松留守」と書いた紙が貼ってあったという。

こんな内容です。病名の由来は歌舞伎や浄瑠璃で有名な心中物語「お染久松」の女性の名から。実際は今のインフルエンザだったようです。

昔この物語が世間に大層はやり、「流行する」ことに引っかけての命名だったとか。病気を久松に恋するお染に見立て、「うちにはあなたの好きな久松はいませんよ、入って来ないでください」という意味で「久松留守」という紙を貼ったといいます。まがまがしいはずの疫病がちょっと小粋に感じ……るワケありませんね。けれど、どんな状況でも心の余裕がまったくなくなると怖いですから。たまにちらりと落語日和、いかがですか?

柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』1020号より

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