くらし

【紫原明子のお悩み相談】人に話したことが後になって気になります。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は気にしすぎの性格で疲れてしまう主婦の方からの相談です。

<お悩み>

初めまして。 どうか生きづらい私にアドバイスを下さると有難いです。

私は、人と会った後や仕事終わりに、とにかく誰かと会話をしたことを思い起こしてこの発言よくなかったかなとか、ちょっと嫌な思いをさせてないかなと考えてモヤモヤしてしまいます。 話してて盛り上がると余計なこと言ったような気がして……仲の良い友達2、3人にはそんなに気にならないのですが(気になることがあってもメールで「~じゃないよ」と弁明したりはたまにします)そこまでではない方との会話は特に思い出してしばらく落ち込みます。

レジの仕事をしているのですが、お客様にもよく話しかけてもらうので、つい話してしまうのですが、その何分間の会話も大丈夫だったかなと思い出します。 この気にしいな性格に疲れます。 宜しくお願い致します。

(いなば/女性/50才のレジ打ちをしている主婦で、成人した息子が二人おります。 相手によって明るく見られたり大人しく見られたりするので、自分が出せる人とそうでない人の差なのかなと思ったりします。)

紫原明子さんの回答

いなばさんこんにちは。

このメールをお送りくださったのは少し前ですね。
その頃と今とでは、世の中の様子は信じられないほど変わってしまいました。

一昨日、近所のスーパーに買い出しに行きました。ここにはかれこれ10年以上通っていて、この日もレジの向こうには顔見知りの店員さんがいました。けれどもそのとき私は大きなマスクを付けていた上キャップを深くかぶっていたので、恐らく店員さんは私に気付いていないようでした。私の方から声をかけようかとも思ったけれど、私と店員さんの間は、それまでにはなかったビニールのカーテン で仕切られていたし、またそれがあったとしても尚、不必要に口を開くのも気が引けて、結局言葉は交わせませんでした。もし私が知らず知らずのうちに感染していたらいけないので、お金を渡してお釣りを受け取る際にも、極力私の手が店員さんの手に触れないように気をつけました。店員さんの表情もやはり心なしかいつもより硬く、強張っていたようにも感じられました。

気軽に誰かと会って言葉を交わしたり、笑い合ったりすることがこうも難しくなる日が来ようとは思ってもみませんでした。もうずっと通っていた場所の雰囲気が変わってしまうと、今自分が以前と同じ日常にはいないのだということを否が応にも実感し、途端に心細さに襲われてしまいます。得体の知れないウィルスとの戦いがいつまで続くのかさえわからない。不安なことも多い毎日です。

だけどこの非日常は、必ずしも私達を苦しめるばかりでもないような気もしているのです。もちろん、多くの人の命を奪い、健康を損ねる。存在してほしくないウィルスです。一方で、人と会って言葉を交わしたり、笑い合ったりすることが難しくなってしまったからこそ、どこか心の荷が軽くなったような気になること、いなばさんにはありませんか?

これまでの世の中は、特にいなばさんのように繊細な方にはことさら生きづらいことの多いものでした。なぜかというと、みんな忙しいし、飽きっぽいし、堪え性がないので、誰かとの会話の中で、慎重に正確な言葉を選んだり、決断に時間をかけたりすることが許されなかったんです。やたらスピードが重宝され、本当はそれが苦手な人も、無理をして瞬発力を使わざるを得ない。すると、たまに思ってもみなかったことを言ってしまい、後で思い出して落ち込んでしまうんですよね。かく言う私にもそういうことはよくありまして、お気持ち、とてもよくわかります。

ここに輪をかけて、SNSで人さまの繋がりが見えるようになってしまいました。この人達はうまくやっているんだろうなあと思うとますます、ここで躓いているのは世の中で自分だけではないか、というような気にもなってきます。

けれどもご存知の通り今、新型コロナウィルスの感染拡大によって、私達の社会が当たり前のこととしていたあらゆる社会活動が、一気に強制ストップとなってしまいました。家の外で行う不要不急の事柄は概ねすべて自粛することが望ましいとされる中で、不自由を感じながらも今、少しずつ、自分にとって必要なものと、実はそうでなかったものとが、見えてきているような気がしませんか?

結論から言えば、いなばさんはこれから始まる新しい日常の中で、少なくとも対人関係においては、どんどん気に病むことが減っていって、気持ちが楽になると思います。というのも、仲の良いお友達にはそんなこともないと書いてくださっていることから、いなばさんが感じる会話の後のモヤモヤは、相手との関係がいなばさんにとって、すっかり安心できるものではないせいでしょう。ではそういう人たちとのお付き合いを今後どうしていけば良いか、ということなのですが、これからの世の中では、そもそも付き合いの浅い他人と対面し、不要不急の会話を交わす機会そのものがなくなっていくので、悩む必要そのものが消えていくと思うんです。

もちろん今の状況は“緊急事態”で、一時的なものと捉えることもできます。一方で多くの専門家が、事態終息までには1年以上かかるという予測を立てています。そうなるとこの期間で、これまでの世の中で当たり前とされてきたけれど、人を焦らせたり苦しめたりするだけで、実は大して重要でなかったことを、案外柔軟な私達は、きちんと淘汰していくのではないかと思うんです(やや希望的観測も含まれますが)。

ですから、いなばさんがこれから考えていくべきことは、何気ない会話を交わす大勢との関係のことよりも、大切な2、3人の友人たちとの関係を、末永く大切にしていくことだと思います。そのためには、例えば新しいツールの使い方に慣れる、今以上に文字でのやり取りに慣れる、といったことを頑張ってみるのもいいかもしれません。また気心の知れた人の顔を見ると安心するので、ビデオ通話を使って、定期的にオンライン飲み会をやるのもいいと思います。

また、人との新たな出会いの機会がぐっと減るので、その分自分が退屈しないようにお好みに応じて、テレビや本やインターネットで、今以上に新しい情報、新しい刺激を積極的に取りに行くことも必要になってくるかもしれません。ただこれらは誰にも気を遣うことなくいなばさんのペースでやれるので、きっととるに足らないことでしょう。

とは言え繰り返しになりますが、今この状況下で、すっかり心を許して付き合える相手が既に何人かいるというのは、ほかの何にも代えがたい幸運です。どうかそのことに胸を張って、大変な毎日ですが、くれぐれもご自分を労りながら、新しい日常をお過ごしくださいね。

 紫原明子さんへのお悩み相談はこちらから!

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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