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『約束』ショーケンというヒロイン……韓国経由フランス風味の純愛映画。│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『約束』1972年公開。松竹作品。DVDあり(販売元・松竹)

斎藤耕一監督が惚れ込んだ1966年(昭和41年)の幻の韓国映画『晩秋』のリメイク作。スクリーンでケミストリー(化学反応)を起こす特別な組み合わせをゴールデンコンビなんて言いますが、『約束』を観ると岸惠子にとってのその相手は、ショーケンなんじゃないかと思えてきます。

北陸を走る急行列車の中、螢子(岸惠子)は思いつめた表情で車窓を見つめる。となりには付き添いらしき女性の姿が。列車に乗り込んできたチャラい男(萩原健一)は、同席した螢子に話しかけ、子犬のようにまとわりつく。彼女も次第に彼に心を許しはじめるが、実は2人とも訳ありの身だった。

わずか数日を描いたシンプルなロードムービーだからこそ、純愛として説得力があります。しかも舞台は冬の北陸。なのに本作にはどこかフランス映画を思わせる、オシャレでアンニュイなムードが漂っているのです。ドラマチックな音楽も相まって、北陸らしいちょっと寒々しく湿った風土が、ノルマンディーあたりの景色に見えてくる不思議。これも主演2人の洒脱な佇まいのせいでしょうか。

公開は1972年(昭和47年)。当時アラフォーでパリ生活の長い岸惠子と、テンプターズ解散後、映画監督を志し本作に助監督として参加していた22歳のショーケン。18歳という年齢差は、おじさんと若い女の組み合わせならめずらしくもないけれど、女性が年上のパターンとなるとレア中のレアケースです。だけどこの2人が、意外なことにめちゃくちゃお似合い。フランス社会で揉まれて成熟した真の大人である岸惠子は、ショーケンの自由奔放な、新しいタイプの演技にも、一切動じません。そして黒いタイトなトレンチコート姿が死ぬほどさまになっているショーケンの、「子犬のよう」としか形容しようのないまとわりつき方を見るだに、「こっちがヒロインだ!」と確信。

ショーケンはここから、’70年代を体現するスターになっていったのです。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。新刊『山内マリコの美術館は一人で行く派展』(東京二ユース通信社)が発売中。

『クロワッサン』1019号より

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