くらし

仕事の定義。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

私は「あなたの仕事は何ですか」と聞かれ、何と答えるべきかずっと悩んできた。初めましての私を前に、「あなたの仕事」を聞こうとする人は、目の前にいる私がどんな経済活動をし、どの程度の収入を得て、どんな生活をしているかを想像することで、私を知るための大きな第一歩を踏み出す。初めましての人が職業は美術家だとのたまえば、「この人は作品を作ることでご飯を食べていけているのだろうか」と必ず思うだろう。私が悩む原因もそこで、「お金にならないことばかりやっていて、仕事と言えるだろうか」と考えてしまう。

それでも最近は、自分の仕事はやはり「美術家」だと感じる。私の場合は「これは仕事だ」と思わなければ、本気になれない。最高に楽しい趣味として何かをやろう!と考えてスタートしても、結局、「仕事」を優先する自分がいて、いつの間にか「仕事」に没頭してしまう。

お金にならないのなら、仕事も趣味も一緒じゃないか、何が違うんだろう、と自問自答。ある日、ラジオで若い歌手が「仕事にしてしまうと必ず締め切りがある。これは趣味として締め切りを設けず楽しみたい」と話していた。その時、私にとっての仕事とは何なのかがやっとわかった。

仕事とはお金を生むことでも、世の中の役に立つことでもない。締め切りがあることが仕事なのだ。締め切りがあるということは、どこかにバトンを渡す相手がいるということで、それこそが私にとって仕事と言えるものなのだと確信した。あくまで「締め切りがあること=仕事」というのは私の個人的な定義だけれど、この定義に行き着いて、とてもスッキリした。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は、https://www.facebook.com/imostudio.imo/にて。

『クロワッサン』1018号より

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