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【紫原明子のお悩み相談】不満だらけの彼との関係をどうしたらいいかわかりません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は彼への不満が募り、好きという気持ちが押しつぶされそうな女性からの相談です。

<お悩み>

こんにちは。私には付き合って5年ほどの彼氏がいます。四つ年上なのですがとにかく彼との問題を挙げだすとキリがありません。セックスレス、彼氏が仕事を辞めてもう3年も無職なこと、彼は一人暮らしなのですがおそらく仕送りをまだもらっていること、本人曰く鬱で退職したらしいので不満や疑問を彼に強くぶつけられないこと……。 だんだん好きという気持ちよりもいろんな焦りや不安が上回るようになってきてしまいました。友人に相談しても人に期待してはいけないだとか、ぼんやりとした返事しか返ってきません。もし彼とこの先も一緒にいるのであればこのままいつかいつかと夢を見たり、我慢をし続けなければいけないのでしょうか。乱文で申し訳ないのですが、アドバイスをお願いします。
(相談者:明星/女性/25歳。一般事務の仕事をしています。彼とはお互い学生時代からの付き合いです。)

紫原明子さんの回答

明星さん、こんにちは。
彼との関係でお悩みなんですね。
いろいろな問題があるようですが、一番大きなことはやはり仕事の問題だろうと思います。そもそも、仕事をしないといけないのか、という大前提から考えてみましょう。というのも、もし仮に彼の実家が裕福で、たとえ働かなくても不自由なく暮らしていけるのであれば。また将来的に明星さんの稼ぎで彼を養っていけそうなのであれば。彼は必ずしも仕事をする必要はないかもしれません。夫が勤めに出て、女性が家庭で専業主婦になるというスタイルは一般的にも認められているものだし、男女が入れ替わったからダメということもないはずです。

けれどもそういった細かい事情はさておき、そもそも世の中には無職に向いている人と向いていない人とがいると思うんです。私の統計によると、無職に向いている人のほうが圧倒的に少数で、多くの人は無職に不向きです。無職に向いている人が無職になっても、親のスネをかじる以上の災難はありません。しかし無職に不向きな人が無職になるとどうなるかというと、腐ってしまうのです。

仕事ってしんどい反面、一番手軽に貢献感を与えてくれるものです。自分が少しでも誰かの役に立っている、誰かの視界に入っているという実感が得られないと、生きていくのが苦しくなってしまいます。誰かの役に立っているという実感を仕事以外で得るには、特殊な才能や感性、恵まれた環境といったものが必要で、仮にこういうものを持っている人が無職になった場合には、腐らないのです。

無職に不向きな人が無職になると、本来仕事をすることで得られていた貢献感が得られなくなるので必然的に、自分は価値のない人間なのではないか、自分はもう社会に戻れなくなるのではないか、という不安で心がいっぱいになってしまいます。そんな人に、「あなたには価値がある」と言ってくれる恋人の存在は、かけがえのない心の拠り所になるでしょう。この拠り所でうまく充電完了して社会復帰してくれるといいのですが、中にはそうもいかず、むしろ自分をごまかし続ける材料として、恋人を長期利用してしまう場合もあるのです。

そういう人は、日々膨らんでいく一方の不安を打ち消すために、恋人に対してどんどん支配的な態度を取るようになります。なぜなら自分が他人に影響を及ぼすことで、一瞬でも気が休まるから。自分が価値ある人間だと思えるからです。

働かない恋人と一緒にいる上で一番問題なのは、明星さんが彼にとって「自分は価値ある人間だ」という実感を与えてくれる、唯一の存在になりかねないことです。もちろんこれは好みの問題なので、それでもいい、むしろそれがいい、ということであれば問題ないでしょうが、私はちょっと重いなと感じてしまいます。たとえ私を欠いても、その日の晩からたらふくご飯を食べてくれそうな強さがないと、パートナーとしては安心できないな、と思います。もし私が別れを切り出したとき「別れるくらいなら死ぬ」なんて言われても困っちゃいますから。

もし、明星さんもそうだとしたらやはり、彼に安心できるパートナーになってもらうか、あるいは安心できる別のパートナーを探すか、そのどちらかしか方法はありません。

そうですね、私ならまず「あなたの仕事が決まるまでは、お互い自分のことを頑張ろう、修行を終えてまた会おう」と一旦、修行タイムと銘打って距離を置きます。彼が本当に明星さんとの関係を大切に思っているのであれば、修行タイムにきちんと修行を積んで奮起するきっかけにしてくれるでしょうし、それでも変わらなかったとすれば、残念ながらそれが彼の答えなんでしょう。

またもし、明星さんが彼と片時も離れたくないというのであれば、彼が再び外に出るまでのお世話をしてあげるという手もあります。といっても、いきなりハローワークに連れて行くと絶対に反発されるので、仕事でなく、彼の趣味ややりたいこと、勉強したいことなんかを聞き出して、それができる場所のパンフレットをテーブルの上に無造作に放置しておく、もしくは“へ〜こういう場所があるんだ”と独り言のように呟く、そんな感じで、あくまでもさらりと彼の視界に入れる。そうして彼が「ここに行ってみようかな」と、さも自分で思いついて自分で決めたような気になる環境を用意するのです。少しずつ外の世界との繋がりを持つことで彼も段階的に自信を取り戻すでしょうし、時間はかかかるでしょうが、その先にきっと再就職も見えてくるでしょう。

……しかしお気づきの通りこれは、明星さんが彼のお母さんになる、ということです。彼が無事、社会復帰する頃には、もしかしたら明星さんと彼との関係は、今とはまるで違うものになっている可能性があります。でも仕方がないのです。彼に疑問や不満を直接ぶつけられないという条件のもとで、彼の思考や行動を変えていくためには、やはりどうしても明星さんが一枚上手になるしかなく、上手になって相手を導こうという発想は、もうその時点で親の発想なのです。親にならない関係を望むのであれば、やはり恋を始める時点で、相手には自立のスタート地点には少なくとも立っておいてもらわなければならないのです。

お手紙には書かれていなかったのですが、明星さんはそもそも恋人に何を望み、どんな関係を築きたいですか? 彼との関係を見直す前に、まずは明星さんが理想とするパートナーシップについて、ぜひもう一度考えてみてください。そして果たして今の彼とそれが実現可能かどうか。何か手を打たなければ実現不可能だと感じたら、自分がそれにどこまで力を注げるのか。これまでお話したようなことを参考にぜひ検討してみてください。明星さんの選択が、お二人にとって最善の選択となりますように。

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イラスト:わかる
イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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