週末はキャンピングトレーラーで必要最低限のもので暮らす。
文・一澤ひらり
キャンプ料理の醍醐味をプラス、シンプルに素材の味を堪能する。
手の込んだ料理は作らない。具だくさんのスープにパンといった素朴なもののほうが、森の生活にはよく似合う。
「スープはコトコト煮るだけでおいしくできるし、体が温まります。このあたりは別荘地で、近くには地元の人たちが利用するスーパーがあるので、野菜とか生鮮品は調達できます。天然酵母のパン屋さんやデリカテッセンもあるので、家族で散歩がてら買いに行くんです。焼きたてのパンとソーセージ、それに湯気が立ち上るスープがあれば、格別のごちそうですね」
妻で料理コーディネーターの渡辺ゆきさんが地場の野菜をおいしいスープに仕立てる。山好きの両親の影響か、ハイキング部に所属する中学生の娘も時に腕をふるう。
「食器はおもにキャンプ用を使っていて、食べ終わったらペーパーで拭いてきれいにします。洗剤は使わないし、洗い物の排水も出さないようにしているんです。森の中で暮らすと自然との一体感が強まるので、大地を汚さないように考えてしまうんですよね」
若い頃に買った一生ものを愛用し、 培った価値観や人生観を再確認。
ここでは電気も水道もライフラインは全く引いていない。
「エネルギー源は基本ボンベに入ったプロパンガスのみ。これだけで暖房、ガスレンジ、そして冷蔵庫まで稼働させることができます。灯りは充電式のLEDランプかキャンドルですが、夜9時ぐらいには寝てしまいます」
水は20リットルのポリタンクに入れて、自宅から車に積んでくる。
「電気、上下水道のない生活を時々体験することは、何でも揃っている都会生活でマヒしている感覚をリセットできるし、災害時にも対応できますよね」
とはいえ、必要最低限のものしかない生活はシビアに思えるが。
「実は大学生の時にお金を貯めて買ったLLビーンのフィールドジャケットとか山の道具とか、一生ものと思ってじっくり吟味して手に入れたものを置いているんです。当時はモノの向こう側にファンタジーがありました。そのワクワク感にいまも満たされるので、僕にとっては捨てることのできない大切な宝物。心の糧になっています」
必要は発明の母、DIYもしかり。森の生活だからこそのひらめき。
5年前に購入した時は一面クマザサに覆われていたという土地を、2年かけてきれいに整地し、キャンピングトレーラーを据えた。
「最初は原野みたいでしたが、手をかけていったら広がりのある場所に。DIYせざるを得ず、トレーラーの出入り口の段差を解消するためにステップ台を作りました。将来的にはウッドデッキにして、森のリビングにしたいと思っているんです」
広葉樹の森なので紅葉の時季は息をのむほど美しいが、やがて枯れ葉が一面に降り積もることに。
「放っておくと埋もれてしまいそうなので、囲いを作って枯れ葉を入れ、腐葉土にしています。時間が経つほどに発酵と熟成が進んでいきますね。実家が農家なので肥料に使ってもらおうかな、なんて考えています」
必要なものはなるべく買わずに自分たちで作る。何もないということは創意工夫を楽しめること。自然に抱かれた森の暮らしで小林さんは何にも縛られない、ニュートラルな存在になる。
『クロワッサン』1017号より
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