40〜50代こそ考え時。心地いい住まいの必要条件。
家族の形に変化が起こりがちな読者世代は、家の“これから”を考える時期を迎えています。
老後も視野に入るものの、それに縛られない。自由に住まう人々に学ぶ、理想の家とは。
文・嶌 陽子
モノの収納場所は明瞭に、誰にでもわかりやすく。
「片づかない」は、生活するうえでの大きなストレスのひとつ。その原因の多くは、モノの収納場所が複雑で、生活動線に合っていないから。
「使う場所の近くにモノの置き場所を決め、誰にでもわかるようにする。すると家族も家事に参加しやすくなり、家も自然と片づきます。特にリビングやダイニング、洗面所などの共有スペースを分かりやすくすることが、心地よく暮らす秘訣」(水越さん)
“誰にでもわかりやすい住まい”にしておけば、高齢になり、友人や家事ヘルパー、介護士など、他人の手を借りることが多くなった時でも安心だ。
適量を持つこともストレスなく暮らすためのポイント。岸本さんもリフォームの際にモノをかなり処分した。
「今では服も器も全て見渡せて、出し入れしやすいように収納しています」
モノを処分するのが苦手という人には、空間を効率よく使って収納力を上げる方法もある、と水越さん。
「収納に無駄なデッドスペースがある場合、棚板を増やせばそれに比例して収納力も増えます。ただしモノの量を把握できるよう、奥行きを浅くするなどのひと工夫が必要です」
老後も視野に入れつつ「今」の心地よさを忘れない。
「リフォームを体験して感じたのは、住宅機器は日進月歩だということ。また自分の体の状況も、今想像する20年後と実際の20年後は全く違うはず。今、老後を見据えて住まいの仕様をがっちり固めてしまうより、“老後にも対応できる余地を残しておく”くらいがちょうどよいのでは。小さなリフォームは何度でもできるのですから」
そう話す岸本さん。リフォーム時、老後を見据えて手すりを付けることも考えたが、実際に必要になってみないと付ける位置なども分からないし、50代の自分にはまだ早いと思い、壁に下地だけ作っておいたそうだ。
「老後も大事ですが、そのために今の自分を犠牲にする必要はない。“今”の自分が安らげるかどうか、目に心地よいと思えるかどうかも住まいづくりの重要な基準だと思います」
心から好きなものを置いて視覚から幸福感のある空間に。
「住まいがもたらす幸せは、大きく2つの種類に分けられます。ひとつは動線の良さなどから来る機能面での幸せ。もうひとつは好きなインテリアやお気に入りのものを見ながら暮らす精神面での幸せです。自分が心から好きだと思うものを家の中の目につく場所に置くと、見るたびに安らげます。さらに目に心地よくないものを隠すようにすれば、もっとくつろげる空間になるはずです」(水越さん)
岸本さんも、リフォームしたのは機能面だけではなかったという。
「玄関を入って最初に目に入る壁の壁紙を、思い切って好きなウィリアム・モリスのものにしました。ほかにもドアノブやフックなどは可愛らしいものを選んだり。小さな部分でも自分好みにしたことで、家への愛着が増した気がします」
長く過ごしたいと思える幸せを実感できること。
リフォームしたことで、意識や生活が変わったと話す岸本さん。
「今や家は私にとって一番安らげる“ホーム”であり、できるだけ長く住みたいと思う場所になりました。いつまでも元気で自立して過ごすためのモチベーションになっているんです。自分で作り上げた家を大切にしたいという思いから掃除もこまめになり、きれいさもキープできています」
水越さんも「外出したくなくなる、一番居心地のよい幸せな場所」を目指すことが、理想の住まいづくりにとって何より大事だと語る。
「居心地がよくなった結果、家族関係までもよくなったというケースをこれまでたくさん見てきました。家にはそんな力があるんです」
自分にとっての“幸せな住まい”とは何か、日頃から明確にしておくことが大切だという水越さん。
「『キッチンのこの部分をこうしたい』といった具体的な希望から、理想のライフスタイルや家族像まで。箇条書きにしてみたり、雑誌などを見て惹かれた家の写真をスクラップしておく。その積み重ねが、暮らしやすい住まいの実現へとつながるはずです」
『クロワッサン』1017号より
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