出世して妻に贅沢をさせてやる、そのためには妻を顧みずに仕事に没頭しても悪くない、という夫のロジックと、「私はただ愛されたいだけ」という妻。そんな考えに対し、彼女の兄はこう言い放ちます。
「バカ、愛だなんて。29にもなって文学少女みたいなことを言うな。ここは外国じゃない、日本だ。夫婦関係は恋愛ではなくて生活だ」。兄嫁も「早く赤ちゃん作んなさいよ」と夫の意見に付き従っていることから、これがこの時代の一般的な結婚観であることがわかります。
本作のあやや(若尾文子)は、かなり時代に先んじて、結婚システムの欺瞞を見抜いているわけで、その苦悩は深い。しかし、彼女に理解を示そうとした男がいたのです…!
夫の夢は仕事にあり、妻の夢は、そんな男に仕事よりも愛されることにある。性別役割分業の囲いの中で、妻は「仕事と私、どっちが大事なの?」と夫に二者択一を迫るしかできないのです。
これは多かれ少なかれ、現代でも女性が抱える本質的な病理かも。愛以外に自分を満たすものを見つけられなければ、煉獄なのです。愛を追求した先になにがあるのか、本作を観ればわかります!