くらし

愛に生きるとはどういうことか? 女の愛を追求し描き切った傑作! 『「女の小箱」より 夫が見た』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『「女の小箱」より 夫が見た』 1964年公開。大映作品。DVD あり(販売元・KADOKAWA)

男は仕事、女は家庭という、昭和から連綿とつづく性別役割分業の意識はいまも強固。
現代でも女性は「女の幸せは結婚」という言葉でやんわりと結婚を強制され、子供ができれば社会からは爪弾きにされ、本人の意志にかかわらず、家庭に絡め取られてしまう部分があります。じゃあその「男は仕事、女は家庭」という価値観の一体なにが問題なのか? それをたった92分で描き切るのが、1964年(昭和39年)に公開された本作『「女の小箱」より 夫が見た』。

株を買い占めて老舗企業の乗っ取りを企む石塚(田宮二郎)は、株式課長(川崎敬三)の妻、那美子(若尾文子)に近づく。結婚7年目だが子供はおらず、仕事一筋の夫に絶望していた那美子は、石塚に惹かれるように。やがてそこに真の愛が芽生えて……。

出世して妻に贅沢をさせてやる、そのためには妻を顧みずに仕事に没頭しても悪くない、という夫のロジックと、「私はただ愛されたいだけ」という妻。そんな考えに対し、彼女の兄はこう言い放ちます。

「バカ、愛だなんて。29にもなって文学少女みたいなことを言うな。ここは外国じゃない、日本だ。夫婦関係は恋愛ではなくて生活だ」。兄嫁も「早く赤ちゃん作んなさいよ」と夫の意見に付き従っていることから、これがこの時代の一般的な結婚観であることがわかります。
本作のあやや(若尾文子)は、かなり時代に先んじて、結婚システムの欺瞞を見抜いているわけで、その苦悩は深い。しかし、彼女に理解を示そうとした男がいたのです…!

夫の夢は仕事にあり、妻の夢は、そんな男に仕事よりも愛されることにある。性別役割分業の囲いの中で、妻は「仕事と私、どっちが大事なの?」と夫に二者択一を迫るしかできないのです。
これは多かれ少なかれ、現代でも女性が抱える本質的な病理かも。愛以外に自分を満たすものを見つけられなければ、煉獄なのです。愛を追求した先になにがあるのか、本作を観ればわかります!

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。新刊のアート・エッセイ『山内マリコの美術館は一人で行く派展』が発売中。

『クロワッサン』1017号より

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