くらし

【紫原明子のお悩み相談】前の夫と今の夫を比べて辛いです。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は離婚後すぐに再婚し、気持ちの整理がつけられていない方からの相談です。

<お悩み>
はじめまして。紫原さんのいつも前向きで具体的な回答を楽しみに読んでいます。よかったら私の悩みを聞いてください。
去年離婚し、電撃的にすぐ再婚しました。付き合って3ヶ月という超スピード再婚です。実は妊娠が判明して籍をいれることになったのですが、流産してしまいました。初めての妊娠でしたので、本当に残念でした。
主人とは共に過ごした時間が短く、お互いのことを理解する前に家族になった感じで、本当にこの人でよかったのだろうか? と一年経った今も考えてしまいます。 傲慢にも教養や常識がないと思ってしまったり、彼の口調の荒さや声の大きさ、そして態度に恐怖や子どもっぽさを感じたり…… 価値観を押し付けようとする自分にも、それに全くのってくれない主人にもイライラしたり絶望感を抱いたりします。
前の主人と比較しているのが原因との自覚はあります。 前の主人はとても穏やかで頭の良い人で、逆に私の方が荒くて怖い、と言われて離婚したのです。 たしかに前の結婚生活を思い出すと自分がしていたのはモラハラではないかと胸が苦しくなります。
前の結婚のあれこれが自分の中で整理できていないのかと思いますが、なにから手をつけていいのかわかりません。 自分の人生を納得して力強く生きていきたい。 そのために今の私には何ができるでしょうか。 お読みくださり、ありがとうございました。
(相談者:リーフ/女性/44歳 主人の扶養範囲内で講師として小さく働いています 子どもはいません)

紫原明子さんの回答

リーフさん、こんにちは。
簡単には打ち明けにくいことだったと思いますが、正直にお話ししてくださり、ありがとうございました。前の結婚での経験が、完全には未整理なまま再婚してしまったと感じていらっしゃるんですね。
穏やかな前の旦那さんにはモラハラのように接してしまい、過去の自分のような今の旦那さんには恐怖を感じたり、子供っぽいと感じてしまう。

もうこのお悩み相談でも何度も取り上げてきていますが、親子のように近過ぎもせず、他人のように遠くもない。恋人や夫・妻との適切な距離を測り、それを維持し続けるというのは、つくづく本当に難しいことですねえ。何せ赤の他人なのにも関わらず体の隅々まで触ったり触られることを許す、体同士を巧妙に連結させ、他人とは共有しない秘密の時間を共有するわけだから、うっかり自分と相手との境界線を見失うなんてことがあっても、まあおかしくはないですよね。

本来はいつだって一人の寂しいちっぽけな存在である私達が、恋愛や結婚によって、一時的にも孤独から逃れられ、南国でバカンスみたいな錯覚に陥るのはまぎれもなくこのせいでしょう。しかし同時に、パートナーにわけもなくイライラしたり、失望してしまったりするというのもやっぱりこのせいなんだろうと思います。相手を他人と思わなくなるから、他人には普通しないような、過剰な期待をかけてしまう。エスパーでもない、ユリ・ゲラーでもない自分が、他人を少なからず思い通りに動かせると無意識のうちに誤解してしまいます。

穏やかで優しかった旦那さんとの結婚が終わって、自分の行為はモラハラだったのではないかと自問されたリーフさんは、おそらく離婚によってようやく、自分が無抵抗な旦那さんの私的な領域に、遠慮なしに侵入し、荒らしていたことに気が付かれたのではないでしょうか。そしてお手紙を拝見する限り、アプローチは違えど今の旦那さんにもやはり、また同じことをなさっているようにも感じられます。勝手に期待し、勝手に絶望し、勝手に見下す。その権利が自分にあるかのように錯覚している。きっとそんな状況に、ご自身でも嫌気がさしておられるのですよね。これでは何も変わっていないと分かっていらっしゃるから、こうして相談を寄せてくださったのですよね。

だとするとリーフさんはやっぱり、いずれかの段階できちんと一度、一人にならなければいけないように思います。一人でいる限り、心のなかにふとしたときに湧き上がるもやもやを、怒りやイライラとして他人にぶつけることはできません。自分がどんなにちっぽけで無価値な人間に思えても、他人を見下すことで目をそらすこともできません。生きている限り、いつまでも耳の側でうるさく鳴り続けるノイズに決して耳を塞ぐことなく、一旦全部、一人で受け止める。親密な関係性で前後不覚になった後には誰しもきっと、そんな時間を取り戻す必要があるのだろうと思うのです。

……で、それをきちんとやった上でぜひもう一度、前の旦那さんのように、リーフさんが心から信頼できる人を見つけられるといいと思います。そして、その信頼できる人との間で次こそは、ご自分と相手との境界をきちんと維持したまま、土足で侵入しない関係が維持できるようにがんばってみるというのはいかがでしょうか。

自分は自分でしかない孤独を受け入れながら、他人と生きていくこともまた決して諦めない。そう心に留めて毎日を暮らすことは、簡単そうに見えてその実、心の筋肉をかなり必要とすることで、だからこそ続けていればきっと、理想とするしなやかな自分に近づいていけると、私は信じています。

「自分の人生に納得して、力強く生きていく」

リーフさんは、もうとっくにその一歩を踏み出していらっしゃると思いますよ。

紫原明子さんへのお悩み相談はこちらから!

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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