くらし

【紫原明子のお悩み相談】人と比べて自分はダメだと思うのをやめたいです。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は人と自分を比べて落ち込んでしまう癖のある女性からの相談です。

<お悩み>
学生時代から周りの人とつい比べてしまい、自分はダメだなぁと思ってしまうところがあります。
自分なりに一所懸命努力しましたが、大学受験や就職に失敗し、どちらも希望は叶いませんでした。 大学受験も就職も第一志望の進路が叶った知り合いを羨ましく思ってしまい、しかも就職は私が行きたかった職場でもあるので、その人に関わると勝手に苦しくなってしまいます。
また、子どもの頃から人付き合いが苦手で友だちがほぼいないのですが、同期や知り合いの結婚式に参列すると多くの友人がお祝いに来ていてそれも羨ましく思ってしまったり、友だちと旅行に行くなんて話を聞くと、私なんて普段誰からも連絡がないのにと沈んでしまいます。
昔からの癖みたいなものですが、それが原因で落ち込んでしまうのでいい加減直したいです。どのようにすればよいのでしょうか?
(相談者:春子/女性/育休中の30代公務員で0歳の子どもが一人います。)

紫原明子さんの回答

春子さんこんにちは。
周りの人と比べてしまうんですね。

ちょっと私の話を聞いてください。私は執筆のかたわら、もぐら会という集まりを主宰しています。もぐら会では月に一度、仕事も年齢も性別も異なる人達が集まって順番に自分の話をしていく、「お話会」という時間を作っています。一度に15人から20人くらい集まるので、長いときには全員が話し終わるまでに4時間くらいかかります。話しのプロでもない、特別なスキルや知識を持った人たちの集まりでもない長丁場のこのお話会は、不思議と最初から最後まで、全く退屈しないんです。当初それは主宰である私だけの感想かもしれないと思ったものの、どうも私以外の参加者のみんなも、大なり小なり同じように感じてくれているようなのです。

一体どうしてこんなことが起きているのかと考えてみると、おそらく理由の一つはこのお話会の場で、一つとして同じもののない、一人ひとりに固有の物語が語られるからだと思います。

先日参加してくれたある子は、こんなことを話してくれました。
「私は、階段を見ると上りたくてたまらなくなってしまうんです」
また、別の人は以前、こんな話をしてくれました。
「離婚後にミジンコを飼い始めたら毎日の生活がとても豊かになりました」

一見、どこから見ても立派な大人である彼らから、思いがけずこういった話が語られるとき、一人ひとりが大切に持っている宝物を、特別に見せてもらえたような、なんとも嬉しくて幸せな気持ちになるのです。

逆に、この場でもし「私は第一希望の○○大学に合格し、第一希望の○○会社に就職しました。友達も多く、充実した生活を送っています」と話す人がいれば、残念ながらその話は、それだけではとても表層的で、陳腐なものに見えてしまうと思います。なぜならその話は社会にごくありふれたテンプレートをなぞっただけで、その人だけの宝物はきっと、そのもっともっと奥をかきわけて、やっと見つかるものだからです。

春子さんが羨ましく思う成功は、たしかに一時的に充足感や達成感をもたらすかもしれません。けれどもそれが達成されなかったがゆえに、今日に至るまで春子さんが人知れず抱えてこられたであろう葛藤の苦しみと切なる願いは、陳腐でありふれた成功なんかとは比べ物にならないほど尊く、魅力的なものであるはずです。

ですのでどうか、そんな春子さんを社会のつくった型にはめようとしないであげてください。ちっぽけな存在に落とし込まないであげてください。春子さんが春子さんとして感じてきたこと、考えてきたことに、耳を傾けてあげてみてください。きっと健気にたくさんの努力を重ねてこられたのだろうと思います。孤独の中で心折らずに自分と付き合ってこられたのだと思います。他の誰とも同じでない、春子さんだけの特別な人生の物語に、きちんとスポットライトをあててあげてください。春子さんだけの物語は、本来そのままで最高に美しいものなのです。

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イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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