くらし

『復元された古代の音』(半蔵門ミュージアム) │ 金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

この世とあの世をつなぐ古代の楽器はどんな音?

わたしが死んだらお葬式にはブルーハーツをかけてくれ。と弟に遺言したのはもう20年も前のことだ。この先どのくらい生きるかわからないが、老獪なババアになって死んだらあのまっすぐな歌は不釣り合いかもしれないなぁ。第一、お弔いにはにぎやか過ぎる……。

平安時代に浄土信仰(生前よい行いをした人は死後、極楽浄土に行ける)が浸透すると、いくつもの「来迎図」が描かれた。臨終に際して、阿弥陀様が極楽から雲に乗って迎えにきてくれる場面の絵だ。多くの場合、阿弥陀様の周りには楽団がいる。ひらひらと衣の裾をなびかせながら、ある人は鼓を、ある人は笛を、ある人は琵琶を奏でている。なんだかとっても楽しそう。死ぬって気持ちいいことなのかもしれない、なんだかちょっと楽しみだ……と思えてくる。

さて今回は、古代の楽器を復元して音を聞かせてくれる展覧会に行ってきた。たとえば「竽(う)」と呼ばれる竹の楽器。中国では2000年前の貴族のお墓からも出土しているし、奈良の正倉院にも保管されているが、平安時代には廃れてしまって長らく演奏されることはなかったらしい。ほかにも簫(しょう)とか箜篌(くご)とか大篳篥(おおひちりき)とか……漢字を見るだけでうっとりするような楽器たちが並ぶ。千年前の音にじっと耳を傾けた。なんとこれらは、あの死ぬ時に迎えにきてくれる来迎図のバンドメンバーが手にしている楽器なのだった!

しめしめ。臨終は古代の音で、葬式はブルーハーツで、ハッピーな気分であの世に行けそうだ。

『復元された古代の音』
半蔵門ミュージアム(東京都千代田区一番町25)にて3月1日まで開催中。正倉院に残されている楽器などを参考に当時のものを再現。仏教と音楽の関係がわかる来迎図の展示とともに、音色も楽しめる。 TEL.03-3263-1752 10時〜17時30分(入館は17時まで) 月・火曜休館 無料

金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。

『クロワッサン』1015号より

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