くらし

『スフとすいとんの昭和』展 │ 金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

戦時の物不足を補った健気で悲しい工夫たち。

細い路地の敷石を伝っていくと、昭和26年に建てられた木造家屋が現れた。昭和のくらし博物館をひとことで形容すると「おばあちゃんち」だ。わたしの父方の祖父母はマンション住まいで、母方の祖父母宅は洋風キッチン、ソファ&ピアノみたいな家だった。だから実際はこんな「おばあちゃんち」を持たないのに、隅々まで懐かしいのは何故だろう。廊下がギシギシ鳴り、足先が冷える感じも「昭和の子」の血が騒ぐ。冬はシモヤケになるんだよね、春になると痒いんだよね。

急な階段を上って展示室へ。入り口には、灯火管制の黒い布がかけられた電灯。昭和20年に結婚した祖母が「灯火管制の暗闇でお見合いをしたから、おじいちゃんの顔を見ずに結婚を決めた」と語っていたのは、これであったか。一升瓶に入れた米を棒でついた話も聞いたが、それは当時七分づき以上の米の販売が禁止されていて、配給米は玄米だったためだ。幻の「おばあちゃんち」にて、生前の祖母から聞いたリアルな体験談が蘇る……。

白米がなくなると雑草入りのすいとんや電気パンが登場し、綿花が不足するとパルプを混ぜてスフに。代用品は、知恵と技術の結晶なんだけど「工夫して偉い」と素直に讃える気にはなれない。兵隊さんの防寒着のために犬や猫を供出した事例など、アホらしくて腹が立ってくる。あぁだけど、わたしだって当時を生きていたら、お国のために張り切って千人針を縫っていただろう(わたし寅年だし)。それがいちばん恐ろしい。

『スフとすいとんの昭和』
昭和のくらし博物館(東京都大田区南久が原2-26-19)にて2021年3月28日まで開催中。館内では映画『この世界の片隅に』の延長版公開を記念しての、戦時下を再現した特別展も行っている。TEL.03-3750-1808 金・土・日曜、祝日開館 10時〜17時 料金・一般500円

金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。

『クロワッサン』1013号より

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