『北斎没後170年記念 北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展』│ 金井真紀「きょろきょろMUSEUM」
80代の北斎は旅する、大作に挑む、毎日描く!
イチローが草野球をしたというニュースにほっこりする。元プロサッカー選手の中澤佑二が引退後にラクロスの球拾いをしていたというニュースもうれし(敬称略)。そこに宿っているのは「頼まれもしないのにやってしまう」パワーだ。お金をもらうわけでも、義理で引き受けたわけでもない。ほんとうに好きなことだから、誰からも頼まれていないのにやってしまう。そういう行為にこそ生きている実感があるし人生の豊かさがある、ような気がする。
さて今回は、すみだ北斎美術館へ。今回の目玉は、長野県小布施からやってきた2面の天井絵だ。これらは北斎85〜87歳の時の作品。そのお年ではるばる江戸から小布施まで出かけた体力にも驚くが、約120センチ四方の板をめいっぱい使った熱量の高い構図、ほとばしる色彩に痺れる。わたしは小布施の北斎館を2回訪ねているから、この絵とは3度目の邂逅だったわけだが、何度見てもいいなぁ。見るたびに元気になる。
もうひとつ、気になるものがあった。晩年の北斎が、毎朝の日課として描いた「日新除魔(にっしんじょま)」だ。日付とともに墨で描かれた獅子や獅子舞は、どれものびのび軽やか。これは注文を受けて制作したものではないと聞いてうれしくなる。そうかそうか、北斎先生ほどの人でも、頼まれもしないのに描いてしまう絵があったんだなぁ。
北斎は89歳で亡くなるとき「あと10年、せめて5年生きられたら絵が上手になるのになぁ」と漏らしたとか。なんか、すごすぎて笑える。
『北斎没後170年記念 北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展』
すみだ北斎美術館(東京都墨田区亀沢2-7-2)にて2020年1月19日まで開催中。北斎館にある晩年の傑作、天井絵の「鳳凰」「男浪」をはじめ、約130点を展示。TEL.03-6658-8936 9時30分〜17時30分 月曜休館(12月29日〜2020年1月1日、1月14日休館)。料金・一般1,200円
金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。
『クロワッサン』1012号より