くらし

三浦天紗子さんが薦める、フェミニズム文学の2作品。

読み応えある「フェミニズム文学」2冊を、本読みのプロが紹介します。
  • 撮影・黒川ひろみ 

{フェミニズム文学}

三浦天紗子(みうら・あさこ)さん●ライター、 ブックカウンセラー。東京都生まれ。著書に『そろそろ産まなきゃ』(阪急コミュニケーションズ)、『震災離婚』(イースト・プレス)が。

書評や著者インタビューを雑誌等で担当する三浦天紗子さんは、

「世界のみならず日本でもフェミニズム文学が注目されている背景には#MeTooの影響もあると思います。ピューリッツァー賞を受けたアリス・ウォーカーの『カラーパープル』、2度のブッカー賞に輝くマーガレット・アトウッドの『侍女の物語』など、’80年代半ばから読み継がれている傑作もありますが、新しいフェミニズム小説もいろいろ生まれています」

『森があふれる』は、作家のミューズだった妻が森と化す、不思議な設定で展開する夫婦交流小説。

「主人公の作家は妻をモデルにした小説で地位を確立しますが、その作品を超えるものが書けない。そこで再び同じ小説作法で書こうともくろむのですが、それがきっかけで妻は“発芽”して、森に変容していく。身体の変容は関係性も変えて、作家は妻と再び向き合うしかなくなるというのがクライマックス。ほかにもコミュニケーション不全に陥っている夫婦やパートナーが登場するので、どの夫婦に共感するかも読みどころ
です」

『三つ編み』はインド、イタリア、カナダと国籍も年齢も境遇も異なる3人の女性が理不尽な人生に屈せず生き抜く姿が描かれる。

「著者は映画監督で脚本家、女優としても成功しているフランス人で、これが最初の小説。仕事も立場も違う3人の女性の半生とその生きづらさを、髪という女性の象徴を介して縒(よ)りあわせる構成の巧みさは映画監督の経験値による気がします。最も過酷な状況におかれているのはインドの女性、スミタ。自分の娘を“この地獄から抜け出させる”と誓い、行動する勇気は涙なしには読めません」

世界的な潮流を、2019年の注目作品から読み取りたい。

『森があふれる』彩瀬まる 著 作家の夫に小説の題材として〝書かれる″ことで奪われ続けてきた妻の琉生はある日、大量の植物の種を飲んで発芽し、家をのみ込む森と化すーー2017年『くちなし』で直木賞候補になった著者の最新長編作品。河出書房新社 1,400円
『三つ編み』レティシア・コロンバニ 著 インドで不可触民(ダリット)として暮らすスミタ、イタリアの毛髪加工会社で働くジュリア、カナダで弁護士をするサラ。3人の女性の人生が〝髪″を通して交差する。本国フランスでは100万部を超えるベストセラーに。齋藤可津子 訳 早川書房 1,600円

『クロワッサン』1010号より

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