斎藤真理子さんが薦める、韓国文学の3作品。
撮影・黒川ひろみ 文・三浦天紗子
{韓国文学}
近年じわじわ人気が高まっている韓国文学。斎藤真理子さんが邦訳した『82年生まれ、キム・ジヨン』のヒットは記憶に新しい。
「韓国文学には、横溢する生命力や考えさせる力があります。愛も外せないキーワード。書き手の体力に読者もとことんつき合うことになるので、秋の夜長にじっくり取り組むにはぴったりのジャンルだと思います」
『中央駅』は、男性ホームレスの視点で描かれた重厚な小説。
「ホームレスの青年の視点には、美しさも感動もない、悲観も楽観もない。すべて否定する中で最後までかろうじて『愛』の一語が残るのが実に韓国らしいと思います。彼が同じ境遇の女性と会い、さらに転落していくさまは、人の不幸を垣間見るという次元ではなく、とにかくこの不思議な男女についていくしかないと思わされてしまう。克明に追体験するような、特異な読書体験になるはず」
現代韓国文学は、女性作家が牽引していると言っても過言ではないが、男性にも注目作家はいる。
「『カステラ』や『ピンポン』で日本でも知られるようになったパク・ミンギュさんが兄と慕うのがチョン・ミョングァンさん。『鯨』は物語の魅力に引き込まれたら最後、500ページ近い厚さを忘れてしまう面白さです。女性たちがかなり過酷な目に遭う話で、読んでいて苦しい部分もありますが、著者の筆致は非マッチョイズム、つまりまったく男尊女卑ではありません。歴史の裏側で救いようのない目に遭った人々が生き抜く姿が感動的で、それに思いが至るよう優しさを感じる描き方をしています。少し寓話的でもあり、南米文学を彷彿させますね」
『広場』は戦後韓国文学を代表する作家の一人、崔仁勲(チェイヌン)の代表作。
「分断の歴史を象徴する非常に重要な作品。朝鮮戦争を契機に日本経済は復興しますが、そのときに隣国では何が起きていたのかを考えつつ受け止めてほしいです」
考えることから逃げられない。骨太で重厚な読み応えが真骨頂。
『クロワッサン』1010号より
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