『郵便屋さんの図像学』│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」
なぜ、郵便屋さんの絵に犬が描かれているのか?
「郵便屋さん」と聞けば、「♪お入んなさい」と縄跳びをする時のわらべ歌が口をつく。この歌、地域によって歌詞が異なるらしいのだが、郵便屋さんが落とした手紙を拾ってあげましょう、一枚、二枚、三枚……という展開はおんなじ。全国津々浦々に郵便屋さんはいて、子どもにとっても身近な存在だったんだなぁ。「おまわりさん」や「駅員さん」の敬称を略すことはあっても、郵便屋さんを「郵便屋!」って呼び捨てにすることは滅多にない。なんか和む存在だよね、郵便屋さんて。
なーんてほっこりした気持ちで今回の展覧会に出かけたわたしは、歴史的資料に衝撃を受けた。
「郵便屋さんて命がけの仕事だ!」
吹雪、落雷、河川の氾濫……配達の途中には数々の障害が待ち受ける。そしていちばんの天敵が犬! 多くの郵便屋さんが犬に襲われ、中には命を落とすケースまであったらしい。1960年の資料では、郵便屋さんの「犬害」は一年間に全国で6875件。うち全治一カ月以上の重傷を負ったケースが6件。い、痛ましい……。今の日本には放し飼いの犬はいないから、だいぶ安全になっただろうけど、それでも熊とかスズメバチとか怖いだろうなぁ。
ところで郵政博物館には、世界各国から集められた膨大な切手コレクションがあり、見ても見ても見飽きない。毎日、世界中で郵便屋さんが手紙を配達しているのだ。そこにはサソリやワニや毒ヘビや山賊や海賊がうようよしているに違いない。あぁ郵便屋さん、どうかご無事で!
『郵便屋さんの図像学』
郵政博物館(東京都墨田区押上1-1-2 東京スカイツリータウン・ソラマチ9F) 企画展示ゾーンにて12月25日まで開催中。郵便創業期に描かれた錦絵や運送の苦労を偲ぶ資料、ポスターやチラシなど数々の印刷物を展示。TEL.03-6240-4311 10時〜17時30分 料金・大人300円
金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。
『クロワッサン』1011号より