くらし

さりげなくフェミで真摯なラブストーリー。映画『パリの恋人たち』

  • 文・寺田和代
ジャーナリストのアベルは、恋人マリアンヌと別れて、若いエヴと暮らし始めるが……。

冬のパリの朝。哀感たっぷりのピアノソロを従えてカメラはエッフェル塔からグレーの空づたいに、とあるアパルトマンの窓に……。この冒頭シーンだけで、ロマンチック好きの胸はある予感で満たされる。恋愛映画の王道を行くフランスシネマの歴史に新たな1ページが加わりそう!

物語の結末、再びグレーの空からパリの街並みを見下ろしながら、導入部からは予想もしなかった感慨に満たされていた。予感は半分あたり、半分外れ。でも、外れた部分にこそ作品の真のメッセージが込められていたようにも思う。

物語の主旋律はシンプルな三角関係ラブロマンスだ。

恋人アベルと暮らしながら、その友人との子を妊娠したことで彼と別れたマリアンヌ。結婚して出産、夫の死後に元彼と復縁するも、彼を片思いする恋仇との恋愛騒動の果てに……。なにやってんの、あんたたち。そう呆れたくもなる一方、恋愛ファーストで道を選び、そのツケもかっこ悪く引き受け、言葉をケチらずに会話を重ねていく登場人物たちがまぶしく、羨ましくもある。

かっこ悪いといえば、2人の女性に翻弄されるアベルの情けなさったらない。観ていて切なくなるほどだけど、その分も女性たちの魅力が際立つ。ルイ・ガレル監督の女性への信頼、さりげなくフェミな視点があるからこそ、恋愛における自分本位な言葉や行動はすべて愛すべき正直さや純粋さに置き換えられる。

大人たちのアクティブな恋愛模様を主旋律とすれば、通奏低音はマリアンヌの6歳の息子、ジョセフの心象風景だ。父を喪った悲しみ、母の恋愛への複雑な思いや孤独感を、周囲を翻弄するあるふるまいで表現する。心の揺れを知的かつ繊細に演じるジョゼフ・エンゲルがすばらしい。

終盤はこの通奏低音が一気に存在感を増し、物語を幸福な結末へと導いていく。恋愛を二者関係だけで完結させない。その意味で、この作品は伝統的(?)なフランス恋愛映画の系譜からは外れるかもしれないけれど、きわめて現代的で真摯なラブストーリーだと思う。

アベルはある夜、復縁したマリアンヌから奇妙な提案をされる。
ジョセフに聞いた父親の死の真相をアベルはマリアンヌに問いただそうとするが……。
若いエヴは一途に初恋の相手、アベルへの思いを募らせるなか、行動を起こす。

『パリの恋人たち』
監督:ルイ・ガレル 出演:ルイ・ガレル、レティシア・カスタ、リリー=ローズ・デップ、ジョゼフ・エンゲルほか 12月13日より東京・渋谷Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開。
http://senlis.co.jp/parikoi/
(C)2018 Why Not Production

『クロワッサン』1011号より

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