くらし

『アルテ・ポプラル--メキシコ造形表現のいま』│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

死後も楽しく生きる!メキシコの骸骨人形。

先々月、初めてメキシコへ行った。旅程は10日間。わたしは行く前から自分に言い聞かせていた。「10日じゃ絶対に足りない。また行くしかない。だから今回は下見のつもりで……」。なにしろメキシコの国土は日本の約5倍で、先住民の言語は政府が認めるだけで65もあるという。汲めども尽きぬ魅力を持った土地らしい。

案の定おもしろく、美味しく、ディープな、そしてあまりにも短い旅であった。帰国後しばらくは余韻を引きずり、すぐに再訪したい気持ちをなだめて暮らしていた。そんなメキシコロスのわたしを捉えたのが、この国立民族学博物館の企画展。いそいそと大阪へ向かった。

「アルテ・ポプラル」とは、市民や職人の手による造形表現のことだという。そういえば! メキシコで、とりわけ田舎町では、名もなき陶工が焼いた素朴な鉢植えとか、名もなき路上のアーティストが描いた鮮やかな壁画とか、そういうものがゴロゴロ転がっていた。あれこそがアルテ・ポプラルであったか。展示品は毛糸絵の雄鶏、陶器の猫、どぶろくのような酒を入れる牛の形の壺……。あぁ、メキシコ各地でこういう物を探し集めたらどんなに楽しいだろう。

いちばん印象に残ったのは、11月の「死者の日」に飾られる骸骨の人形。メキシコの人たちは、死者もあの世でいきいきと生活していると考えるのだとか。たしかに骸骨さん、じつに楽しそうである。それにしても「死者がいきいき」って最強の思想だ。待っててねメキシコ、すぐにまた行くから!

『アルテ・ポプラル--メキシコ造形表現のいま』
国立民族学博物館(大阪府吹田市千里万博公園10-1) 本館企画展示場にて12月24日まで開催中。職人や一般の人々の手による仮面、人形の展示や、骸骨の姿があふれる街並みを紹介。 TEL.06-6876-2151 10時〜17時(入館は16時30分まで) 水曜休館 料金・一般580円

金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。

『クロワッサン』1010号より

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