落語会の客席の設営も様変わりしまして……。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
一年ほど前に膝の具合が悪くなりました。正座する稼業の噺家にとっては死活問題になりかねないので病院に行ったところ、診てくれた先生が101歳! この先生に私の膝痛の原因は「歳のせい」と言われました。その顛末があまりにも面白かったので、日本中の高座でおしゃべりしたせいでしょう、すっかり回復した今でも、お客さまから「膝は大丈夫?」と、たびたびご心配いただきます。ハイ、大丈夫です。
確かに正座を長時間続けるのは膝に負担が大きいと、101歳先生もおっしゃってました。そんな傾向は落語会の会場にも影響を及ぼしていて、公民館の和室などで開催される頻度が、年々減っているように感じます。
過去に何度か経験したのは“客席前方は座布団に座るお座敷タイプ、後方には椅子席を並べる洋式仕様”という会場設営です。
「全部椅子席にしたほうがお客さまも楽なんじゃありませんか」と主催者さんに提案しましたが、世話役さんは「この地域は年配の人が多いんだ。畳の上で生活するのに慣れているから、座敷の席を作ればみんな喜んで座るさ」と。
ところがいざ蓋を開けてみると、若いお客さまは「日頃から慣れてない」、年配のお客さまは「膝がツラい」という理由でほとんどのかたが椅子席へ。客席の前半分は“無人の荒野”の如き光景で、遠い遠いお客さまに向かっておしゃべりしなくてはならない噺家は面食らうことはなはだしく……。よく見たら座敷に自信満々だった世話役さんまで椅子席でのんびり落語日和だったのです。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1010号より