フードロス削減や世界平和……特殊冷凍技術で生まれた、ビーガン和食の目指すもの。
写真・文 クロワッサンオンライン
年々増加している訪日外国人。そのうちベジタリアンの数は約150万人もいるのをご存知でしょうか。その市場規模は約468億円といわれ確実に需要があるものの、仕入れや商品開発、余った場合のフードロスといった課題からそのニーズに対応しきれていないのが現状です。
「大豆を使った食品など、日本に昔から普通にある食べ物は、いま世界から注目され投資対象になっています」と語るのは、九州大学グローバルイノベーションセンター客員教授で工学博士の並木幸久さん。精進料理などベジタリアンフードの長い歴史を持つ日本。世界のベジタリアン市場における和食の可能性にもっとも気づいていないのが、当の日本人だとか。
「オリンピックを機会にますます増えるであろう訪日外国人のうち、宗教上の理由などで肉を食べない人たちにホスピタリティとして日本のベジタリアンメニューを提供したい。実は日本には細胞を破壊せず味も落とさない世界トップレベルの冷凍技術を持つ企業があります。これを利用すれば、フードロスもなく環境にやさしいベジタリアン食を、世界中の人々により容易に提供できるようになります」と並木さん。
その企業とは、新潟を拠点にし、凍結機から自社開発している「フリーズ食品開発株式会社」。独自の「液冷式凍結」という技術で、調理したてに近い状態を再現する冷凍食品をプロデュース。これまで難しいといわれていた豆腐料理やプリンなども冷凍できるほか、風味を損なわず塩分を最大99%も減らせるなど健康面でも注目されているフードテック企業です。
今回、その凍結技術を使い、ベジタリアンの中でも特にルールが厳しいビーガンメニューを地産地消料理研究家の中村恭子さんが監修。絶対菜食主義と言われるビーガンは徹底的に動物製品を避けるもので、たとえばはちみつは「蜂が運ぶからNG」など使えない食品の数も多数。安定した需要のない中で一般的な飲食店が提供するのは難易度が高く、ベジタリアンメニューの中でも特に冷凍食品化が求められる分野と言えます。
こうして生まれた冷凍ビーガン和食。どれくらい「冷凍食品」ばなれしているか、さっそく試食スタートです!
ぷりぷりとした湯葉、豆腐のうまみがいっぱいの豆乳のクリームチーズ風、みずみずしいふろふき大根にもっちりとした白玉……正直、言われなければ全く冷凍食品だと気づかないクオリティ。薄味で上品で、昔旅した山形の宿坊でいただいた精進料理を思い出しました。
メニューを監修した中村さんは、「先進国の一人一人が肉食という習慣を週に1度やめるだけで地球温暖化にストップをかけることができたり、無理な畜産業が営まれず、貧困国に対して必要な食べ物を行き渡らせることができるという調査結果もあります。毎日は厳しくても、週に1回ぐらいビーガンに替えるだけで、世界平和に少しでも貢献できるなら、という気持ちでメニューを開発しています」とコメント。
世界の中でも注目され始めている和食が日本の技術で世界へ。九州大学では今後、糸島市にフードセンターをつくって日本の食とフードテックを世界市場にアピールしていくのだとか。
ユネスコ無形文化遺産でもある和食が世界に広まり、世界平和やフードロスの解決へとつながる……そんな未来を感じた試食会でした。
訪日外国人におけるベジタリアンの数および市場規模の出典は https://frembassy.jp