『インドネシア 僻地の手仕事―スマトラ島、ティモール島など』│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」
手織りの布を前に考える「贅沢ってなんだろう…」
何年か前、四国の山奥に住む仙人(のように暮らす人)を訪ねた。「せっかくだから昼メシ食べてってよ」と言われ、ちょうどお腹も空いてきたしご馳走になるか…と、そこからが大変だった! 仙人の指揮のもと、畑に行って野菜をとってくる。かまどに火を起こす。石臼でスパイスを挽く。カレーライスができるまでに軽く2時間はかかったと思う。お腹ペコペコで作ったあのカレーを、折に触れて思い出す。あれは生涯でいちばん贅沢なランチだったかもしれないなぁ、と。
今回、岩立フォークテキスタイルミュージアムで出合ったのは、インドネシアの島々の布。そこには「手仕事の贅沢さ」が満ちていた! たとえばティモール島の布は、「そろそろお父さんの服を作りましょう」と思い立ったお母さんが、庭の綿花を摘んできて、それを手で紡ぎ、小さな壺で藍に染め、縦糸と横糸で精巧な柄を出しながら2、3年かけて織り上げたものだという。その手間暇、時間感覚、人生に圧倒される。
「手仕事の布は着ているうちに体に馴染むんです」。半世紀以上にわたって世界中の染物や織物を見てきた館長の岩立広子さんはニコニコとおっしゃった。「均一に織った布は着心地が悪いのよ」。いやはや、そんなこと考えたこともなかった。着心地のことなんて考えもせずに機械で織られた布を身にまとい、注文したら5分で出てくるカレーを食べて生きている我が身を思う。わたしはまだまだ贅沢を知らない。贅沢とは金か、時間か、愛か…はて…。
『インドネシア 僻地の手仕事―スマトラ島、ティモール島など』
岩立フォークテキスタイルミュージアム(東京都目黒区自由が丘1-25-13 岩立ビル3F)にて11月9日まで開催中。染織の宝庫とも言われる同国の多彩な織物を展示。TEL.03-3718-2461 10時〜17時 会期中の木・金・土曜日開館。料金・大人500円
金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。
『クロワッサン』1007号より