くらし

秋のカルチャー案内【落語】。

芸術の秋、気になる映画や展覧会、あるいはコンサートも多いはず。各分野の“目利き”におすすめ作品やアーティストを聞くとともに日本の伝統芸能、落語の魅力を紹介します!
  • 撮影・岩本慶三 文・一澤ひらり

話芸を間近で。 この秋は寄席で落語初体験を!

案内人 柳家三三(やなぎや・さんざ)さん●1974 年、神奈川県生まれ。1993年、柳家小三治に入門し、2006年真打昇進。本誌で「きょうも落語日和」を連載中。
撮影・武藤奈緒美

三三さんに、寄席を案内してもらいました。

木戸と呼ばれる入場券売り場で木戸銭(大人3,000円)を払って入ると、大きな熊手が出迎える。「ドア向こうが客席です」
1階正面は椅子席、両脇は靴を脱いで上がる桟敷席。「床に緩い傾斜があり見通しよく、靴入れは閉じると机になります」
大入りで1階が満席になると、2階席を開放。「前方が桟敷席で、後方は長椅子です。全体が見渡せる眺めは格別ですね」
「寄席の舞台を高座といい、お座敷を模してます」。桟敷席は高座の噺家と目線が同じ高さになり、目が合うチャンスも。
高座と楽屋を仕切る障子にはいくつか開けられた窓がある。「楽屋でこの窓から様子を見つつ、お囃子を奏でるんです」
「出番を待つ噺家は障子の窓から高座の様子をうかがえるし、修業中の前座はここから食い入るように見ながら勉強します」
末廣亭では衝立の小窓に“見出し”という演者の名入りの木札をはめる。「前座が演者の交代に合わせて付け替えます」
“見出し”という 木札はココだけ!
高座に隣接する楽屋では、出番を待つ噺家が待機。「火鉢を前に柱を背負うところが一番の上座。名人しか座れません」
ネタ帳に当日披露された演目を前座が書き込む。「これを見ながら、ネタや内容が被らないように演目を決めていきます」
「館内は明るいので、高座からお客さんの様子が見えるんです。リラックスして聞いてくださると演者もうれしいですね」

お気軽さが寄席の魅力。

新宿三丁目の繁華街にあって、築70年余の木造建築が江戸情緒を漂わせる新宿 末廣亭。大きな幟旗(のぼりばた)、軒先に連なる提灯、独特の寄席文字の看板が趣を宿す昔ながらの老舗寄席だ。

「私が初めて末廣亭に来たのは、小田原に住んでいた中学1年生の時。千葉にいた落語好きの祖母と新宿で待ち合わせて入ったんです。トリは古今亭志ん朝師匠で、面白さに圧倒されました。実はその後、噺家になった初高座もここだったんですよ」

と話すのはいまや独演会のチケットが入手困難、本誌の連載「きょうも落語日和」でもおなじみの若手本格派のホープ、柳家三三さん。

「寄席ほど気楽にライブで笑える場所はないと思うんです。一年中ほぼ毎日、昼も夜もやってますから、好きな時にお笑いを楽しめます。噺家のほうだって高座にかける演目は客席の雰囲気やネタ帳を見て直前に決めるんですから、まさにライブ感満点なんです」

落語だけでなく、漫才や奇術、紙切り、曲独楽(きょくごま)といった落語に色を添える“色物”を楽しみながら、トリをつとめる噺家の登場に向けて盛り上がっていく。演者たちの見事な連携プレーで寄席ならではの雰囲気ができあがる。

「寄席は独演会やホールの落語会などとは違って、噺家の肩の力がほどよく抜けていて、お客さんと一緒に空気をつくっていくんです。どうぞ、お気軽にいらしてください。入場券は当日券のみで全部自由席。こう言っちゃナンですが、いつ来てもまず座れます(笑)」

新宿 末廣亭

プログラムは上席(かみせき)(毎月1〜10日)、中席(なかせき)(11〜20日)、下席(しもせき)(21〜30日)ごとに変わる。これは9月中席の出演者チラシ。

1946年(昭和21年)に再建された東京で唯一の木造建築の寄席。長押の釘隠しや欄間の透かし彫りなど精緻な細工も見どころ。新宿区の「地域文化財」に認定されている。昼の部(12時〜16時半)と夜の部(17時〜21時)に分かれているが、特別興行以外は昼夜通しで見られる。座席での飲酒はできないが、飲食自由。

『クロワッサン』1005号より

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