意志を感じる視線、きっぱりとした口調、颯爽とした佇まい。歳を重ねても、「カッコいい女」の代名詞として輝きを放ち続ける夏木マリさん。
「そう思ってもらえるのはうれしいけれど、わりとドジだし、不器用だし、実はあまりカッコよくはないの。でも仕事で鍛えられて、人との出会いで救われて、なんとかやってこれました。もちろんここまできたら、それなりに自分らしく生きているとは思うけれど」
すんなりと肩の力が抜けていて、なんの気負いもない。それは挫折や失敗が続いた不遇の〝暗黒時代〟をあきらめずに歩いてきたからこそ。歌手としての夏木さんといえば、歌謡曲『絹の靴下』の大ヒットで知られるが、その後、鳴かず飛ばずの状態になって、8年間キャバレー回りを経験した。
「羽振りだけはよくて、ブランド品を買い漁って、毛皮のコートに外車を乗り回すみたいなイヤーな芸能人(笑)。とにかく20代後半はヤケクソで、ジャニス・ジョプリンのように歌いたいと思う理想と、現実とのあまりのギャップに自分が何をしたいのかもわからなくなっていましたね」
夢も希望もない自分に嫌気がさして30歳で事務所をやめた後、移転した日劇ミュージックホールのこけら落としの出演依頼が舞い込む。「ヌードの殿堂」としてつとに知られた劇場だ。