【前編】ずっと自分の歯で食べたいから、信頼できる歯科医選びのポイント。
撮影・中島慶子 イラストレーション・安ケ平正哉
セカンドオピニオン外来で今の歯の状態を確認する。
歯を失うもうひとつの大きな原因となる歯周病は、歯の構造のなかで、どのように進行するのか?
「歯と歯肉の境目には歯肉溝(ポケット)と呼ばれる窪みがあります。ここにプラークがたまると、プラークの中にあるばい菌が原因で歯肉に炎症が起きます。歯肉が腫れるとポケットの溝はさらに深くなり、歯を支えている歯槽骨を次第に溶かしていきます。歯周病とはこのようなプロセスを経て、結果として歯を支える歯槽骨がどんどんなくなり、最後には歯が抜ける病気です」
歯周病は初期の段階では痛みや自覚症状がなく、サイレント・ディジーズ(静かに進行する病気)といわれる。
「歯槽骨が減ってくると、歯肉の炎症は治まっても元の状態には戻りません。歯周病は風邪や胃腸炎のように回復可能な病気ではなく、症状がひたすら悪化する一方通行の病気なんです」
歯周病の進行はポケットの深さで判断できる。健康な歯周組織を維持できている人なら、ポケットの深さは2mmほど。これが3〜4mmほどになると歯肉炎と呼ばれ、歯槽骨は減っていないが、歯肉に炎症が起きてくる。さらにポケットが5mmになると歯周炎と呼ばれ、歯石がポケット内に付着した状態になるほか、歯槽骨が溶け始める。
「ポケットが6mmに達すると抜歯を勧める歯科医が多いです。それは大学の授業で教わることもありますが、この段階で放置すると一気にポケットが深まり、歯槽骨も痩せ細るからです」
歯周病を防ぐには、早期治療に尽きると齋藤さんは話す。
「歯周病の自覚症状が出るのは末期なので、一般の人が発見することは難しい。定期的に信頼できる歯科医院でチェックを受けてください。ただ、歯周病予防のプログラムを実施している歯科医院には、歯科衛生士まかせで歯科医自身が関与しないところもあります。もし、歯科衛生士によるケアが終わった後に、歯科医による口腔内の診断がない場合は、別の歯科医院を探したほうがよいかもしれません」
残念なことに、歯をできるだけ残したいと希望する人に応えてくれる歯科医院の数は限られている。現在、歯科医院に通っている人で治療方針に疑問を持っている場合は、まず歯学部付属病院のセカンドオピニオン外来を利用してみる手もある。
「少なくとも、今受けている治療が標準的治療といえるかどうかはわかるはずです。また、歯科医院を探す際にインターネットで検索する人が多いと聞きますが、医院のホームページには誇大広告といえる医学的な根拠のないことも掲載されていますので注意してほしいです。名医がいる歯科医院にはクチコミで多くの患者さんが来院していますから、ホームページでは住所や電話番号など基本データと診療の特徴を簡潔に説明しているものが多いです」
齋藤 博(さいとう・ひろし)●サイトウ歯科院長。1977年から東京・新宿にてサイトウ歯科を開業。著書に『100歳まで自分の歯を残す4つの方法』(講談社)がある。
『クロワッサン』978号より
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