「歯科医院は、むし歯治療だけのためにあるのではない。予防のためにある、というのが新しい常識です」と指摘する坂本紗有見さん。
「歯周病はとくに予防が大事。症状が出たときには、かなり進行していることが多く、放っておくといずれは歯が抜けてしまいます。同時に歯を支えてきた顎の骨が体内に吸収されてしまい、顔の形まで変形することがあります」
この悪循環は「オーラルフレイル(口腔の虚弱)」といって、今、注目を集めている。その理由は、
「影響が口腔内にとどまらず、全身に及ぶからなのです。歯の状態が悪いとしっかり噛めない。柔らかいものばかり食べるから、栄養が偏る。結果、生活習慣病も発現し、最悪な結末に寝たきりということもあります」
まさに、老化は口から始まると、坂本さんは警告する。
「でも大丈夫。方法はあります。まずは、自分の口腔内の状態を正しく知ることから始めましょう」
通常、初診、再診と2回の検査で、歯、歯並び、歯茎の状態から、口腔内の菌の種類、顎の骨格までチェックする。これに加えて、坂本さんのクリニックでは、高感度CRP検査で炎症の度合いもチェック。
「治療しても数値が下がらない場合は全身疾患の可能性を疑って、必ず内科医へつなげています」
妊娠性歯肉炎を起こしがちな妊娠中の女性にはこの検査は必須で、早産や低出生体重児出産にならないよう、ケアの重要性を説くきっかけにしている。
「すべての検査をしてみると、どんなに丁寧に歯磨きをしている人でも、充分でないことがわかります」
そこで、歯科医院でしか行えないプロケアを同時進行させる。
「プラークを除去し、石灰化した歯石を削り取るのですが、歯並びの悪い人はとくに注意が必要です。磨き残しが多い分、歯周病のリスクも高いからです。整っていればセルフケアもしやすくなるので、40代、50代の歯列矯正もメリットは大きいんです。ただし、矯正の前に歯周病の治療をしておくこと。矯正は、歯を支える歯槽骨を溶かしながら歯を動かすからです。歯周病菌がいたらどうなるか、想像できますよね」